2016 Fiscal Year Research-status Report
国際協力におけるボランティアの動員メカニズムに関する研究-官民連携モデルの考察-
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26380712
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
高橋 華生子 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任講師 (80507905)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際協力 / ボランティア / シンガポール / 人材育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
三年目にあたる本年度は、これまでにおこなった調査と発表を基にして、本研究の対象事業であるシンガポールの「ユース・エクスペディション・プログラム」(以下、YEP)に関する分析を深めていった。本年度の調査の焦点は、YEPというボランティア事業が市民による社会貢献活動の促進だけでなく、途上国支援政策の一翼に位置づけられる可能性である。シンガポールの政府開発援助(ODA)は、資金や物資の提供ではなく、Singapore Cooperation Programme(SCP)と呼ばれる技術協力に特化しているが、YEPの諸事業も知識や技能の移転を取り上げる傾向があり、この点からも両者の親和性が高いといえる。また、開始当初はSCPを担当している外務省と関係のある団体がYEPを管轄しており、こうした背景からもYEPがODA的な要素を多分に含んで発展してきたことが分かる。このようにトップダウンの枠組みから捉えていくと、YEPは海外ボランティアの活発化に留まらず、人的交流を媒介にした外交政策であると把捉できる。すなわち、若年層を近隣の途上国に送り出し、あえて草の根レベルでの技術協力を増進させることで、これまでのトップダウン体制のイメージを打破していこうとする政府の意図が読み取れる。
本年度までの成果をまとめると、YEPそのものは若年層の海外経験と社会貢献活動を奨励する一般的なスキームのように思われるが、その背景にはグローバル化時代におけるマクロな国家戦略が綿密に描かれている。つまり、YEPという具体的な試みを通して、非営利セクターを軸とする新たな経済開発の推進、オルタナティブな途上国支援の探求、域内でのプレゼンスを高める外交政策の実施といった狙いが見えてくる。こうしたポイントの発見は、研究の立ち上げには想定されておらず、本研究のあり方と目的を再考する際の重要な羅針盤になるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
三年目にあたる本年度は、YEPに関する調査内容をまとめることが目標であり、YEPそのものの情報や資料の収集、関係団体やステークホルダー等への聞き取り調査が終了した。また、英語で作成した中間報告に関して、シンガポール側の調査対象者・協力者からコメントやフィードバックが得られたのも有意義な収穫であった。そうした計画上の点に加えて、先の研究実績の概要でも述べたように、研究当初の段階では認められていなかった知見が明らかになり、インタビューの対象を拡げる必要が出てきたため、それらに対応するための聞き取り調査もおこなった。このように、研究を深化させる要点が検出され、研究の視野を広げることができたのは大きな成果であった。今後の課題は、これまでに現場で得られた知見を補完・実証することであり、そのための文献調査をさらに掘り下げていく必要がある。
現在まで進捗状況を整理すると、計画時に記したシンガポールでの聞き取り調査は完了しており、新しい発見とともに必要になった追加のインタビューも終了している。これらの総括はある程度まで済んでいるため、文献調査を進めて理論的な肉付けをし、最終的な論文として完成させることが次年度の課題であるとまとめられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針については、本年度までにおこなった聞き取り調査を基にして、背景や要因などにかかる理論的な分析を展開していくことがメインになる。まずは、本研究の調査対象であるシンガポールの取り組みを考察し、市民による社会貢献活動の発展を政策的な見地から分析していく。そこからさらに研究を発展させ、人材育成と国際協力のつながりを精査しながらグローバル化時代における国家の対外戦略を検討していく。そして、これまでの調査と議論の総括に向けて、報告書や論文といった最終的な成果の発信に取り組んでいく計画になっている。
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Causes of Carryover |
本年度までに成果をまとめて学会発表や論文執筆といった作業に注力する予定であったが、調査協力者や有識者からのアドバイスやフィードバックを得た結果、シンガポールの政府開発援助や外交政策からもYEPを検討・考察する必要性が生じた。そのため、シンガポールの政府機関(とりわけ外務省)から資料を入手し、聞き取り調査をおこなうことが求められたが、複数のルートから打診してもそれが実施できなかったこと、これが遅延の第一の理由である。それを補うため、現地で入手できる資料(報告書や新聞・雑誌記事、ニューズレターなど)に焦点をあてて、代替となる情報の収集に努めた。それに加えて、YEPの所轄官庁が変更になり、それにともない調査に協力してくれていたYEPの担当者が異動になったため、調査の調整と進行に滞りが起きたことも遅延の理由として挙げられる。以上の理由により、本年度の予定と消化額に変更が入ったことを記しておく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の計画については、これまでの成果を整理・総括する研究に努めていく。具体的には、聞き取り調査のまとめに基づいて論点ごとの文献調査を強化し、YEP自体の考察に関する論考と、YEPを国家戦略から分析する論考の体系化を進め、最終的な成果の発信に取り組んでいく。
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