2015 Fiscal Year Research-status Report
高度経済成長期における少年文化の形成―プラモデル製作ブームを中心に
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26380719
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
勝野 宏史 大阪経済大学, 人間科学部, 准教授 (20580749)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 近代 / ユートピア / テクノナショナリズム / ポピュラー文化 / 少年文化 / ミリタリー文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高度成長期のプラモデルブームに注目し、科学技術の発展とポピュラー文化の形成との相関関係について明らかにすることを目的としている。その際、考察の中心となるのは以下の二点である。(1)最新の工業製品を模したプラモデルの象徴性がどのように科学・技術立国政策と少年文化とを結びつけるイデオロギー的役割を果たしていたのか?(2)少年達にとって、プラモデル製作がいかに戦後近代化へ主体的に参加する実践となっていたのか?
本年度は昨年度に引き続き(1)の問題を掘り下げるために、関連資料のさらなる収集・整理を行った。その中で興味深いテーマとして浮上したのはボックスアート(箱絵)と呼ばれるプラモデルの箱のパッケージデザインとその描き手である絵師の存在である。パッケージデザインとしての箱絵の第一の目的は組み立て完成後の商品の説明にあるが、箱絵のデザイナーとして活躍していた小松崎茂、高荷義之、大西将美らが少年誌の挿絵画家であったことを踏まえると、箱絵のより大きな役割はプラモデルを当時の主流な少年文化と結びつけていたところにあると考えられる。
この点に関しては、2016年度の研究でさらに追究していきたい。その際、特に小松崎茂に焦点を当てて分析を進めていきたいと考えている。小松崎は1960年代から70年代においてもっとも活躍した箱絵絵師であるが、彼の作品のルーツは戦時中の戦争画に遡ることが出来る。本研究の目的の一つは、ナショナリズム・テクノロジー・男性性の結びつきが戦前・戦中の軍国主義的ナショナリズムから戦後の「科学・技術立国」ナショナリズムへの移行の中でどのように再編されたのかということを検証するところにあるが、この点に関しては少年文化における小松崎茂の描くイメージの受容に注目することでその一部が明らかになると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2014年度は育児負担による遅れが生じたが、2015年度はおおむね順調に進んだ。ただ、初年度の遅れを取り戻すまでには至らず、3カ年の計画全体から見るとまだ若干の遅れがある。本来の計画では、2016年の3月に所属学会(Association for Asian Studies)の研究大会で2年間の研究成果の発表を行う予定であったが、アブストラクトの提出期限までに十分な分析が出来ておらず、2016年6月のAssociation for Asian Studies in Asiaに発表の場を変更した。「やや遅れ」とはこの三ヶ月分の遅れである。ただ、進捗そのものは順調であるため、この遅れを2016年度中に取り戻すことは十分可能だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要の欄でも述べたように、ボックスアートという当初想定していなかったテーマが浮上したことにより、若干の計画変更を余儀なくされている。当初はもっとフィールドワークを中心とした聞き取り調査を行う予定であったが、現状では歴史資料の分析を軸にした研究にシフトさせることでよりまとまりの良い研究成果が出ると考えている。2016年度はさらなる資料発掘と分析を進めつつ、年度末に所属学会での最後の発表を行うとともに、投稿論文の執筆を進める。
最終年度の大まかな計画であるが、6月にこれまでの成果の発表を行い、そこで得られたフィードバックを基に大学の夏期休暇中に資料の整理と分析を集中して行う。その後、年度末の学会発表と投稿論文の仕上げの段階に入る。
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Causes of Carryover |
最大の理由は、聞き取り重視の調査から歴史資料の分析を軸とした調査への変更によって、予定していたよりも旅費にかかる支出が減っていることである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由によって、物品費(主に図書とコピーした資料をデジタル化して保存する機材)の割合が予定よりも上がっている。次年度の計画としては、予算を無駄に使用しないことを心がけながらも、分析の対象となる関連資料を最大限収集できるように計画を進めていく。
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Research Products
(1 results)