2015 Fiscal Year Research-status Report
日本における知的障害者グループホーム構想の成立史―制度化前史に見る連続性―
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26380785
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
齋藤 慰子 (角田慰子) 立教大学, コミュニティ福祉学部, 特定課題研究員 (80647602)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 知的障害 / グループホーム成立史 / 信楽青年寮 / 民間下宿 / 池田太郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
1960年代初頭に滋賀県信楽の地で始まった民間下宿は、現在のグループホームの前身にあたる先駆的実践の代表事例として、知的障害福祉・教育関係者の間でもつとに知られている。本年度は、信楽青年寮関係者のご厚意により、池田太郎記念資料館の資料整理と並行して関連資料の発掘を進めた。現段階で入手できた資料をもとに、民間下宿が開設されるまでの時期区分を行い、開設経緯を概観した。 1.民間下宿につながる実践の萌芽―1954年から1961年 後の民間下宿につながる実践は、財団法人信楽青年寮開設前年の1954年に始まる。それは、家庭では受けとめきれない青年Aを、知的障害児施設滋賀県立信楽寮(現信楽学園)の児童指導員が自宅で預かるという取り組みであった。青年Aは、翌1955年に新設された信楽青年寮に移るが、その後も同職員宅では、信楽寮退所者2名を受け入れていく。ほかにも、職員とその家族による同様の取り組みは続いた。これには、成人知的障害者の福祉施策が皆無に等しい状況下にあって、信楽青年寮への入所希望が常に定員を超えて全国から寄せられたこと、加えて自由契約施設であるがゆえに、費用の全額負担が困難な低所得層の受け皿が必要とされたことが関係していた。 2.民間下宿の発足―1962年から1968年 1962年、信楽学園で事務職兼窯業の工場長として勤務していた職員が、自宅の一部を解放して集団自治寮を開設した。同寮は、低額ではあっても部屋代・食費・光熱費等を入居者が負担するという、現在のグループホームにきわめて近似した特徴を有する当時としては画期的な試みであった。集団自治寮の名称は、開設してまもなく「民間下宿」へと変更される(恵崎[1993]49)。その後、信楽青年寮および信楽学園職員による同様の民間下宿が2軒開設されるものの、経済的事由等で信楽青年寮に入所できない者が民間下宿の中に混在する実態は残るのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予想していたよりも、膨大な資料が池田太郎記念資料館に保管されていることが判明した。本年度は、その整理・データ入力等の作業にかなりの時間を費やさざるを得なかった。また、遠方のため、調査先には月1回の訪問で、2日間作業をするのが限界であった。 RA・アルバイトを採用して作業の補助を依頼することも検討したが、以下の理由から本年度は最低限の活用にとどめた。理由としては、①交通費・宿泊代がアルバイトの自己負担になること、②施設関係者との関係づくりを重視しているため、可能であれば毎回同じ人に依頼したいこと、③作業日が研究代表者の同行できる日時に限られること、が挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
池田太郎記念資料館に保管された資料の中から、民間下宿を開設した池田太郎信楽青年寮初代施設長の直筆原稿を含む貴重な一次資料が数多く発見された。また、現地に足を運び、作業を進める過程で、施設関係者からも有用な情報を得ることができている。 そのため、今後も、先駆的実践を展開した民間福祉施設については、信楽の民間下宿に焦点をしぼり、その開設経緯と展開過程の分析を進める。民間下宿の実践は、知的障害者グループホームの制度化に際しても、代表事例として少なからぬ影響を与えたことは広く知られており、課題の解明は意義深いと考える。ただし、資料整理はかなり時間がかかると予想されるので、一次資料にこだわり過ぎず、現地だからこそ入手できた貴重な二次資料の整理・分析にまずは力をいれたい。資料分析から浮かび上がる疑問点については、民間下宿初期の状況を知る施設関係者に聞き取りを行うことを予定しており、内諾も得ている。
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Causes of Carryover |
当初、RAには5日間の調査同行・協力を依頼して謝金を確保していたが、日程が合わず、止むを得ず3日間に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に、再度RAとして調査協力を依頼しているため、その経費に充てる予定でいる。
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