2014 Fiscal Year Research-status Report
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26381010
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
藤井 亮輔 筑波技術大学, 保健科学部, 准教授 (70352565)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 朝鮮総督府済生院 / 視覚障害者 / 鍼按教育 / 韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本統治時代に朝鮮総督府済生院で展開された盲人鍼按教育の変遷を跡付けた上で、現代韓国の理療に係る教育と業について日本との制度的異同及びその背景を明らかにする。平成26年度は3ヵ年計画の初年度であり、①日韓共同研究体制の組織化、②研究者会議の開催(2回)、③文献の収集、④韓国人研究者へのインタビュー、⑤済生院関連施設の見学と資料収集等、当初の研究計画に掲げた業務をほぼ遂行し、初期目標をおおむね達成できた。その成果の概要を以下に述べる。 1. 朝鮮総督府済生院の設立過程と同院盲唖部における鍼按教育の沿革:韓国併合の翌年(1911年)に発布された朝鮮総督府令第77号により孤児の教養、盲唖者の教育、精神病者の救療を目的とする「済生院」が設立され、同年6月の「養育部」(孤児施設)と翌1912年2月の「医療部」(精神病者救療施設)に続いて1913年に「盲唖部」が新設された。盲唖部の授業が開始された同年4月、医療部が総督府医院附置になる等の改組が行われ済生院は専ら孤児及び盲唖者の教養・教育を掌る施設となった。視覚障害者を対象とした鍼按教育は盲本科(修業3年)で行われ、修身、国語、朝鮮語、算術、体育の教養系科目とともに鍼按の専門教育(普通按摩、鍼治法大意、用管刺法、解剖大意、按腹、生理の大要、マッサージ、捻鍼刺法、病理衛生大意)が各学年に週12時間配当された。 2.旧朝鮮における盲唖者の概況: 1921年7月に実施された第1回盲唖者調査によると、朝鮮における盲唖者人口は15,639人(盲者8,792人、唖者6,847人)で対人口10,000では盲者5.09人、唖者3.96人で内地比で盲者が1.16人上回り唖者は2.76人下回った。一方、最も多い年代層をみると盲者では「31-40歳」だったのに対し唖者は「11-20歳」で、盲者には長寿者が多いことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
下記のとおり、当初の研究計画に掲げた業務をおおむね予定通りに実施できた。 (1) 日韓共同研究体制の組織化(日本:藤井亮輔・長岡英司、韓国:呉泰敏・李宇寛)、(2) 文献の収集:「朝鮮総督府済生院を訪ふ記・朝鮮乃満州第八十三号」「朝鮮総督府済生院の概況・大正四年八月号」「朝鮮総督府済生院の概況・大正五年度」「山名善來・朝鮮総督府済生院の事業・『朝鮮』社会教化事業号七十七号・大正十年」「朝鮮盲唖者統計要覧:1921年・1926年・1938年」、ほか10点、(3) 日韓研究者会議の開催(第1回:H26年7月11日、第2回:H27年2月13日)【於ソウル】、(4) 韓国人研究者へのインタビュー:平成27年2月14日:イム・アンス氏、ヤン・マンソク氏【於ソウル】と日本語翻訳・データ化 しかし、当初計画していた当事者(日本統治時代に鍼按教育を受けた経験のある関係者)からの聞き取り調査を実施することはできなかった。候補となる対象当事者の人選・選考を韓国盲人協会、韓国按摩師協会等に依頼したが、生存を確認できた者が少なかったこと、生存していても高齢を理由に承諾が得られなかったことがその理由である。したがって聞き取り調査で予定していた済生院盲本科の鍼按教育体験者の証言については、ごく限られた韓国側の文献と韓国人研究者2名(前記)から得た情報に依存せざるを得なかった。また、ハングルで残されている済生院関連の文献がきわめて少ないことが判明した。70年前までの日本統治下の社会を対象とする本研究の限界と考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
中間年に当たる平成27年度は、初年度に実施できなかった被支配者側の資料(韓国語表記の資料を含む)と済生院の生徒当事者ないし関係者の証言の収集・翻訳に引き続き務めるとともに、現代韓国における理療教育ならびに按摩業の規制法令に関する文献についても収集し日韓の比較研究を行う。 上記業務と並行しつつ、第3回日韓研究者会議をソウルで開催し、研究の進展状況を確認し合うとともに、研究成果の公表方法と今後の取組等について協議・検討する。 最終年度の平成28年度は韓国併合より以前(1895年)に日本の統治下に置かれた台湾において行われた視覚障害者対象の鍼按教育史について同様の研究を予定しているが、平成27年度は、その準備のための調査として、台湾総督府時代に置かれた台北・台南の盲学校を訪問し関連資料の収集と関係者への聞き取りを実施したい。
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Causes of Carryover |
平成27年2月14日に韓国人研究者2名に対して実施したインタビュー(「現在までの達成度」の(4)に記載)の録音内容を日本語のテキストデータに翻訳する業者委託料が予定額よりも安価であったことと、その納期が本年4月になったことの二つの理由により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
朝鮮総督府済生院関係者の証言録音のデータ翻訳と韓国語表記文献の日本語翻訳に要する予算に、当該残予算を積み増して使用する予定である。
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