2015 Fiscal Year Research-status Report
フランス革命期「併合地・姉妹共和国」における「公教育」施行状況の実証的研究
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26381012
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小林 亜子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90225491)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス革命 / 公教育 / 総裁政府 / 革命政府 / ライン左岸併合地 / エコール・サントラル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランス革命期に施行された公教育制度について、革命戦争による併合地や姉妹共和国における施行と受容の具体像を明らかにしようとするものである。フランスは革命戦争の中で隣接地を併合し、その外周には姉妹共和国を建てていたが、こうした併合地や姉妹共和国の統治や教育・文化政策については、刊行史料が存在しないため、これまでほとんど解明されていなかった。本研究では、当時の併合地や姉妹共和国にあたる地域の史料がフランスと当該地域の公文書館に存在することをつきとめ、これらの史料の収集・分析によって、フランス革命期に体系的な公教育組織法が本格的に施行されたのは総裁政府成立後のことであり、この法律は併合地にも施行されていたこと、併合地や姉妹共和国の教育状況が総裁政府に詳細に報告されていたことなどを明らかにしつつある。また、併合地の人々によるフランスの公教育組織法の弾力的な運用のしかたや、当該教育をうけた学生たちの国境を越えた移動の諸相など、法令の分析からだけでは解明できなかった点も導き出しつつある。 研究成果の国際的な発信という面では、本研究の成果をフランスでのフランス革命史研究国際シンポジウム(2014年9月)で報告したことを契機として、国際的な革命史研究への貢献を評価していただき、2015年7月には、フフランス革命史研究所所長セルナ教授を日本に招聘して本研究代表者が主催するシンポジウムを開催することができた。このシンポジウムでの議論では、植民地と併合地の比較や、総裁政府期を革命史にどのように位置づけるか、さらには、アンシャン・レジームを視野にいれたより長い時間枠で革命期の教育政策を捉えるための視点などの豊かな成果が得られたので、本研究の成果をさらに深化させるため、同教授と本研究代表者による国際共同研究を開始し、成果を刊行していくこととなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、対象地域と対象領域の広さということもあり、申請のとおり3年間にわたって行う研究としてすすめているため、2年度目を終えた段階で全体的な総括を述べることはできないが、実績欄にも記載したとおり、総裁政府期に施行された「公教育組織法」の実施状況を研究していく過程で、刊行史料の存在しない当時の併合地・姉妹共和国にあたる地域について一次史料が存在することを確認し、その収集と分析はかなりの程度すすめることができている。また、これまでの成果については、2014年にフランスで開催された国際シンポジウムにおいて報告を行い、この報告は、当該分野を専門とする研究者の方々にご推薦いただいて、フランス革命史研究の国際学会誌に掲載されることが決まっていること、分析した史料の貴重性から大幅にページを増やして掲載していただく準備がすすめられていることから、本研究は、国際的な革命史研究として評価していただくことができていると考えている。 当初予期しなかったこととしては、本研究の調査対象地で、研究の初年度のみならず2年度目にも、史上例をみないテロが相次いで発生し、調査対象地への渡航を自粛せざるを得ない状況が何度も生じたことである。史料調査の地域や期間を変更せざるを得なかったことは、新たな史料の調査・収集という点ではマイナス面もあったが、すでに収集していた史料をしっかりと分析し、成果をもとに海外の研究者と研究交流を深めることについては、想定以上に順調にすすめることができ、次年度に調査対象地の治安がおちついたときに集中的に調査を行うための基礎固めや、研究成果を国際的に発信していく展望も開けたので、プラスの効果も大きかったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の問題設定、すなわち、これまで理論面のみの研究にとどまりがちであったフランス革命の伝播と受容という問題について、フランス革命期の革命戦争による併合地や姉妹共和国も視野に入れて、教育をめぐる法や諸制度の施行状況と、地域の人々によるその具体的な受容の様相を明らかにしていくために、フランス側の史料だけではなく、当該地域の一次史料を用いて解明していく作業を継続する。フランス側の史料の分析を終えて、当該地域に残されている史料の調査・収集を研究計画に沿ってすすめ、併合地や姉妹共和国については、フランス革命期に設けられていた行政区分と現在の国境がかなり異なる地域もあるため、引き続き当該地域の国立公文書館だけではなく、地方(県や市町村のレベル)の文書館での史料調査・収集も行う。とくに、本研究採択後に相次いでおきた大規模テロのために調査ができなかった地域については、重点的に史料調査・収集を行う。 研究成果の国際的な発信のため、本研究代表者がフランス国立フランス革命史研究所所長セルナ教授(パリ第一大学)を日本に招聘して行ったシンポジウムの諸報告と議論について、論文集として刊行する。また、パリ第一大学ピエール・セルナ教授と本研究代表者によるフランス革命史の共同研究をすすめることとなったので、本研究をさらに深化させ、国際学会誌を通して成果を発信する。
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Causes of Carryover |
本研究は、フランス革命期の「併合地・姉妹共和国」に関する史料調査を重要な柱としているが、予定していた海外での史料調査について、調査予定地でテロが相次いで起き渡航自粛の必要が生じたため、調査先の研究者とも連絡をとりつつ、調査を一部延期し、残りの調査は、治安の回復を待って行うこととした。治安状況が改善し、調査可能な状況になった段階で、先方の研究者と打ち合わせを重ね、史料調査を行うこととなったため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により、革命期の「併合地・姉妹共和国」に関する史料調査を終えていない地域について、先方の研究者とも相談して、現地での調査予定の再調整を行い、次年度に、海外調査を実施することとした。また、次年度からパリ第一大学ピエール・セルナ教授との共同研究を行い、成果をフランス革命史研究の国際的な学会誌に発信していくこととなったので、収集史料の総合的な分析とデータベース化や研究成果の国際発信を行うため、未使用額は、これらの経費にあてることとしたい。
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Research Products
(14 results)