2015 Fiscal Year Research-status Report
芸術活動を媒介とした統合的な自然体験を基礎とする幼児教育実践体系の構築
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26381083
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
笠原 広一 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50388188)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 一成 大阪樟蔭女子大学, 児童学部, 講師 (70737238)
坂倉 真衣 九州大学, 総合研究博物館, 専門研究員 (70758606)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 幼児教育 / 芸術教育 / 自然体験 / 感性 / 領域表現 / 領域環境 / 美術教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,一年目に生成した仮説を検証する実践についてフィールドワークを実施し,実践事例を収集し仮説理論の実体化を図ることと,附属園や協力園等で共同実践を通して仮説理論の洗練を図ることを目的とした。昨年度の調査から得られた自然や芸術の体験理解の視点も取り入れて調査を進めるために,当初の調査方法に修正を加え,今年もフィールドワークの量的・質的拡大を図った。 九州(5園),四国(1園),関西(1園),関東(2園),東北(1園)で調査を実施し,とりわけ自然体験の背景にある子どもの生活体験の実感や,自然との関係の固有性といった具体的な体験の質的側面を,保育の参与観察やインタビュー,園の実践記録の検討を通して理解することができた。生活文化や環境教育,ESDにつながりながらも,より日常的な生活実感としての自然体験のあり方を考える手がかりを多数得ることができた。 また,幾つかの園では芸術表現と子どもの生活体験の充実を関連させた保育カリキュラムの構築に取り組んでおり,本研究が課題としている点について幾つかの試行的な実践と記録を有するケースも見られた。年度後半はそうした園での詳細なデータ収集を行うことができ,現在も整理分析を進めている。芸術体験を媒介とする,自然体験に根ざした幼児教育実践体系の構築に大きな手がかりを得ることができた一年であった。 研究成果の発表については研究構成員での研究会議を開催し,調査内容の相互共有と仮説理論の精緻化,新たな体験理解と保育実践構造の構築に向けた分析作業が進展した。最終年度に向けて研究成果をまとめていく方針もより具体的になった。こうした成果は,論文発表2件(海外ジャーナル1件),学会発表6件(国際学会2件)にて発表済みである。以上,平成27年度に予定した研究はおおむね順調に研究成果をあげている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度から成果発表に取り組むことができたため,平成26年度は一部国内調査を平成27年度に移すことにしたが,それも含めて本年度は全国10園で詳細な調査を行うことができた。幾つかの園では研究代表者と分担者とが一緒に調査し,同じ事象を多角的に分析することにも努めた。保育への参与観察を通して,自然体験の実感といった質的側面についての間主観的な感受認識をもとに調査内容を省察し,インタビューや提供していただいた実践記録資料の分析から,体験を捉える保育者の視点や仮説理論の構築につながる理解を多数得ることができた。調査の中で新たな課題は多数生起してきてはいるが,調査や分析,議論が深まるにつれて,研究全体が当初の想定よりも深い段階へと進んで行く状況になってきている。 研究代表者及び分担者の次年度からの所属校変更もあり,今年度予定していた附属幼稚園での仮説検証は実施できなかったものの,調査園から予想以上に詳細な実践記録提供の協力が得られたことで,ある程度自前の検証を補えるだけの実証事例のデータを得ることができた。また幼児を対象とした自然観察会や幼稚園教諭を対象とした講習で,本研究に基づくプログラムを実施できたため,実践理論化につながる実証データも多数収集することができた。 昨年度からの持ち越し分がある国内調査では,九州地区に特徴的な園が複数あったため,比較的九州地区に集中したことで,中部・北陸・甲信越,北海道での調査を次年度に残すことになったが,本年度の調査から関連する園を抽出できているため,早い時期に調査を実施することができる状況にある。 成果発表はほぼ昨年同等数であるが,海外ジャーナルでの査読付き論文(1件)や国際学会発表(2件)も含んでおり,研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究で得られたデータや仮説理論をもとに,継続的なフィールドワークからのデータも取り込みながら,年度中盤以降は研究分担者との研究会議を充実させ,研究成果の取りまとめと報告書作成を進める。 フィールドワークはある程度の調査件数と情報収集量を得ているが,同じ園での複数回調査もあるため,現時点では調査エリアの広がりに課題がある。残りの調査対象地区でのフィールドワークを早期に実施し,国内の多様な実践事例の広がりをふまえて成果をまとめていきたい。 附属幼稚園や協力園での実証研究については,新しい所属先の附属幼稚園・保育園との関係構築が始まったばかりではあるが,既に共同実践を行いたいという要請も受けており,園側の年間計画を尊重して無理のない形で共同実践を進めていきたい。 また,自然体験やESD,伝統的な生活文化などは研究者それぞれの専門性をもとに考察を進めている部分も多いため,夏期等に数日間の集中的な研究会議を実施し,相互の知見の共有と新たな枠組みの構築に向けた討議を深めていく。 引き続き国内外での成果発表に取り組みつつ,できるだけ多くの現場で利用してもらえるような報告書となるように,十分な編集執筆の時間を確保して意義ある成果をまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度の国内調査において九州地区内に研究課題に関連する園が複数あることが判明したため,結果的に隣県での調査の割合が高まり,その分,遠距離移動を伴う調査の割合が下がったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に計画を移動した調査地は平成28年度の早い段階で調査を行うことになるが,北海道など遠方の調査地も含まれており,次年度使用額を用いて国内調査の旅費不足分に充てる予定である。調査先は本年度の研究をもとに具体的に絞られており,速やかに日程を調整して調査を開始できる状況にある。
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Research Products
(10 results)