• Search Research Projects
  • Search Researchers
  • How to Use
  1. Back to project page

2015 Fiscal Year Research-status Report

「科学」カリキュラムの日英比較社会学―教科書の変化に注目して

Research Project

Project/Area Number 26381123
Research InstitutionTokyo Gakugei University

Principal Investigator

金子 真理子  東京学芸大学, 教員養成カリキュラム開発研究センター, 准教授 (70334464)

Project Period (FY) 2014-04-01 – 2018-03-31
Keywordsカリキュラム / 教科書 / 教師 / イギリス / 日本
Outline of Annual Research Achievements

イギリスの義務教育の最後の二年間で必修の「GCSE サイエンス」のTwenty First Century Scienceコース(以下、21CSと記す)が掲げた目的は「すべての若い人たちにサイエンス・リテラシーを身に着けさせること」であった。この教科書の第1版のイントロダクションは、そのための方法として、「議論の両サイドからの異なる証拠を比較評価する」「あなたに影響を及ぼす科学に関する諸問題について意思決定する」スキルを、すべての若い人たちに身につけさせると宣言した。
この教科書の第1版で特筆すべきは、「予防原則」(precautionary principle):「ある特定の人間行為に伴うリスクの結果がどれくらい深刻になるか、誰にもわからない時には、そのリスクをとらない」と、ALARA(as low as reasonably achievable):「ICRPが示した放射線防護の基本的考え方であり、『すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである』という基本精神に則り、被ばく線量を制限する」という、二つの原則が示されている点にあった。だが、これらは第2版からは削除された。第2版は、より幅広い科学的事実を網羅的に伝える一方で、科学技術の利用に関しては、リスクと便益の両論併記にとどまり、個人や社会の判断には立ち入らないスタンスが貫かれた。このような全体的なスタンスの変化の中で、科学的事実として確立されていない、「予防原則」および「ALARA」といった原則は削除される必然性があったと理解できる。しかしながら、この2つの原則が削除されたことによって「あなたに影響を及ぼす科学に関する諸問題について意思決定する」ための一つの契機が失われたのと軌を一にして、この目的も以前のように強調されなくなったのである。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

日英両国で、過去から現在にかけての中等教育レベルの「科学」の教科書を調査し、原子力・放射線にかかわる単元を中心に、その内容と記述スタイルの変化について検討した。日本では、2008年に改訂された新学習指導要領による教育課程が中学校では2012年度より実施されているが、新たな理科教科書における特徴は、三石(2013)によると、原子力・放射線に関しては、“両論併記”的記述、つまり、原子力・放射線の「利用」に関する記述を基本としながら、一定の範囲で処理上・技術上の安全性に関する課題(問題点)を提示するという展開になった(三石初雄2013「「高リスク」社会の中で価値選択的課題にどのように向き合うか」『社会科教育研究』No.119)。イギリスの21CSの教科書も、第一版から第二版にかけて両論併記型へと変化したことにより、日本の記述スタイルへと近づいた。
このような日英両国のそれぞれのカリキュラムを通して、「あなたに影響を及ぼす科学に関する諸問題について意思決定する」能力は、はたして育つのか。日本においては、そもそもこのような発想自体がなかったかもしれない。現在までの本研究を通して、①科学教育の目的・意味、②科学の教科書の内容および記述スタイル、③科学教育によって培われる科学的リテラシーの中身について、相互の連関を比較分析する視座を得ることができた。

Strategy for Future Research Activity

「予防原則」および「ALARA」は、「あなたに影響を及ぼす科学に関する諸問題について意思決定する」際の羅針盤の一つとして選ばれ、未来の市民たる生徒たちに提示されたものである。これらが選ばれた理由は、21CSが「科学のなかの不確実性」‘uncertainty in science’と、「社会のなかの科学」(science in society)という視点を持ち合わせていたからである。
未知のリスクがわからない場合は公衆の安全を守ることを最優先にすべきとする「予防原則」とは違い、「ALARA」はリスクとコストを天秤にかけながら行動することを許容する、よりプラクティカルな原則である。したがって、もし未知のリスクが過小評価された場合、現在のコストが不当に優先されることになる。だからこそ、未知のリスク評価には、科学が必要である。しかしながら、科学といえども、不確実性を持ち、しかも、それが政治的、社会的、経済的影響を受けるものだとすれば、未知のリスク評価は、科学的のみならず社会的に算出/産出されるということに、私たちは自覚的でなければならない。
今後の研究の推進にあたっては、第一に、このような視点に立った科学教育が導入されるためには、いかなる認識、方法、社会条件が必要なのかを、比較社会学的に分析していきたい。第二に、子どもが「あなたに影響を及ぼす科学に関する諸問題について意思決定する」主体になることを保障するには、いかなる認識と実践が必要なのかを検討する。

Causes of Carryover

英国の教科書のテキスト分析と過去に実施したインタビュー調査結果の分析に専念したほか、「子どもの意見表明権」に関する文献調査と論文執筆に時間をかけたため、当初予定していた費用がかからなかった。

Expenditure Plan for Carryover Budget

次年度は、日英のカリキュラムに着目して、インタビュー調査と文献調査を進めるとともに、研究成果の報告を行いたい。教科書の内容および記述スタイルの変化の背景を探るために、教科書のテキスト分析のみならず、ナショナルカリキュラムや学習指導要領を分析するとともに、関連する文献資料の収集とインタビュー調査を実施する。教科書の内容や記述スタイルを規制するものとしては、英国においてはGCSE評価基準およびGCSE試験制度について、日本においては教科書検定制度について、それぞれの制度を運用する組織の変容を含めて検討する。
さらに、教育政策、教科書作成のシステムと文化、教科書供給会社・教師・保護者等の思惑、科学者やメディアによる言説を含めて、教科書の変化を取り巻く社会的要因を調査・分析することによって、教科書の変化の背景を比較社会学的に明らかにする。

  • Research Products

    (2 results)

All 2015

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 2 results,  Acknowledgement Compliant: 1 results)

  • [Journal Article] 子どもの「意見表明権」の社会的意義2015

    • Author(s)
      金子真理子
    • Journal Title

      子ども社会研究

      Volume: 21号 Pages: 75-94

    • Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
  • [Journal Article] 小学校における英語教育2015

    • Author(s)
      金子真理子
    • Journal Title

      児童心理学の進歩

      Volume: 54 Pages: 133-160

    • Peer Reviewed

URL: 

Published: 2017-01-06  

Information User Guide FAQ News Terms of Use Attribution of KAKENHI

Powered by NII kakenhi