2014 Fiscal Year Research-status Report
フランス中等教育における文学教育:文学遺産の形成・継承・課題
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26381243
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Research Institution | The International University of Kagoshima |
Principal Investigator |
飯田 伸二 鹿児島国際大学, 国際文化学部, 教授 (60289650)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文学教育 / 文学遺産 / 教科書 / コレージュ / 国語教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は2度にわたりリヨン高等師範学校内のフランス教育院図書館,アキテーヌ高等教育師範学院付属図書館で資料収集を行った。また,アキテーヌ高等教育師範学院では教員を対象に聞き取り調査も行った。収集した資料をもとに,ボルダス,アシェット,コラン,ナタンといった主要教科書会社が1940年代から1970年代前半にかけて出版したコレージュ第1学年用教科書に採録された作品・作家を世紀,ジャンル別に分類した。さらに,それぞれの教科書が準拠していたカリキュラムとの照合作業を行った。また,各教科書の作文課題をリストアップしてその傾向を解析した。 上記の作業から,現行教科書と比較して,この期間における教科書の特徴として以下の点が確認できた。1 教科書の出版リズムが穏やかである。同じ内容の教科書が装丁を変えたり,内容を微調整しながら,20年近く使われているケースが複数確認できた。2 教科書はカリキュラムの作家・作品リストをほぼ忠実に反映している。3 しかし,それらの作家・作品が教科書に占めるスペースには著しい違いがある。4 いずれの教科書でも「17世紀から今日に至る散文と韻文の抜粋」が際立って多くのページ数を占めている。5 その結果,カリキュラム上の表記が示唆する以上に,実際の教科書では19世紀・20世紀の作家が大きなスペースを占めている。6 教科書に占める韻文作品の割合が多い。7 作文課題は,教科書で学んだ表現,構文,段落構成に基づいたものが多く,その意味では修辞学的な問題が多い。8 一方で,生徒の個人的な経験に訴えかける作文課題も多数出題されている。 以上の成果は,2014年度日仏教育学会研究大会,九州大学フランス語フランス文学研究会誌,鹿児島国際大学国際文化学部紀要等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学校教育における,また学校教育を通じての文学形成の過程の多面性に光をあてることができた。また,統一コレージュ施行(1977年)以前は,複線型教育システムが採用されてきたフランスの教育を論ずる際には,初等教育と中等教育の断絶が強調されるのが一般的であるが,その断絶を再考する視点も獲得できた。この2点において,今年度の研究は一定の進展を遂げたものと考える。 学校教育における学習内容を論ずる際に,まず重視されるのはカリキュラムである。1940年~1970年代前半におけるコレージュ国語カリキュラムの作家・作品リストは17世紀・18世紀を中心に構成されている。カリキュラムだけから判断すると,当時のコレージュの国語教育は革命以前の古典作家・作品を中心に行われていたという結論が自明である。 ところが,教科書の内容を仔細に調査すると,最大のスペースがカリキュラムの「17世紀から今日に至る散文と韻文の抜粋」に割かれており,しかもその中でも19世紀・20世紀の作家が最も多くの頁数をしめていることが判明した。 つまり,少なくともジャン・ゼー改革(1937年)から統一コレージュ施行(1977年)以前のフランスにおける前期中等教育では,カリキュラムによる古典的文学的教養の涵養が志向される一方で,教科書では言語の面からも,社会的側面からも生徒の生活世界に近いテクスト,題材が選ばれていたことが明らかになった。 また,作文課題でも文学的な課題(ex. 教科書に採録されている文学作品の抜粋の続きを想像したり,抜粋を他の登場人物の視点から書き換える)よりも,生徒の生活・経験に近いものが選ばれている。 これらの調査結果は単に当該時期の国語教育の実態,文学遺産の形成プロセスを考察する点からだけでなく,今日のフランスにおける国語教育の特徴・志向を考える上でも重要な視点を提供するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題は,調査対象学年をコレージュ初年時からさらにコレージュ4学年全体に広げると同時に,調査対象時期を1970年代後半から今日にまで広げる必要がある,さらにその調査結果を今年度の調査結果と突き合わせ,コレージュにおける文学遺産の形成プロセスをより広い視点から記述・考察することが求められる。そのため,フランスでの資料収集を継続して行う。同時にフランスの研究者および教育現場でカリキュラムを施行し,生徒と接する教員との交流,意見・情報交換を行う。得られた研究成果は学会,専門誌,大学紀要を通じ積極的に発表する。
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Research Products
(3 results)