2014 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラム圏大学生への大学適応を促進する多角的支援法の開発
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26381317
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
古橋 裕子 静岡大学, 保健センター, 教授 (40377726)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自閉症スペクトラム / 大学生 / 支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成14年度文科省の調査では通常学級に約6%の割合で自閉症スペクトラム(以下ASD)の生徒が在籍していると報告され、大学においても同様の割合のASD圏学生の存在が示唆されている。しかし大学におけるASD圏学生の支援体制はいまだ不十分であり、学生相談担当者を中心に試行錯誤の中で行われている。本研究は在学するASD圏学生に対して教員が体験した指導上の困難さに関する調査を実施し基礎資料を作成すること、及び基礎資料に基づいたASD圏学生へのグループ介入プログラムの検討を目的として開始された。平成26年度は保健センターが介入したASD圏学生の事例分析、質問紙による教員に対しての指導の困難さ及びASD圏学生の学内の不適応状況に関する調査をした。この事例分析と調査結果分析により、適応上の問題を生じた修学環境と当事者の障害特性を明確化して支援のための基礎資料を作成した。また保健センター来談者の中で自閉症スペクトラム圏学生でグループワークの対象者の選定を行い、月2回グループワークを実施した。 また、視覚障害、聴覚障害、運動障害などの他の障害に比して、ASDは分かりにくいとう関係者の戸惑いがある。その原因として、1.ASD概念について診断の併存例が多い、2.ASD圏学生と一般学生の境界が曖昧、3.具体的支援が不明、4.合理的支援の範囲が不明、等が挙げられる。平成26年度は、学生支援を導入するにあたり、戸惑いの原因となっているASD圏学生の「分かりにくさ」を解消するために、ASD圏学生の類似した臨床像の原因特性を判別的に評価するための方法を示した。 平成27年度は平成26年度の結果と併せて再度結果の解析およびASD圏学生にインタビューを実施し、その自己理解やセルフモニタリングの在り方について、質的に検討する。このようにASD圏学生への支援体制を検討し続けることは重要な課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は保健センターへのASD圏学生来談者の事例分析、質問紙による教員に対しての指導の困難さ及びASD圏学生の学内の不適応状況に関する調査を行い検討した。この事例分析と調査結果分析を使って得られた適応上の問題を生じた修学環境と当事者の障害特性を明確化して支援のための基礎資料を作成した。また保健センター来談者の中で自閉症スペクトラム圏学生でグループワークの対象者の選定を行い、月2回グループワークを実施した。平成26年度は、学生支援を導入するにあたり、戸惑いの原因となっているASD圏学生の「分かりにくさ」を解消するために、ASD圏学生の類似した臨床像の原因特性を判別的に評価するための方法を示し、一般学生においても課題となっている初年次教育の実施や社会人基礎力の養成について、その支援内容が、ASD圏学生支援と共通性をもつことを示した。 ASD圏学生支援では、高等学校までの特別支援教育の支援資産があるものの、単にその延長線上として、大学での支援を捉えることはできない。高校までの学校教育に比して、大学では学校の管理や保護が減少する。学生の置かれる環境が大きく変化し、大学は学校教育と社会生活の中間的性質をもつ。その環境の変化に伴い、大学で新規の支援ニーズが生じており、発達障害の診断がなく支援を受けている学生が、診断があり支援を受けている学生の2倍の数になっている。その支援ニーズについても、単に修学支援というよりも、むしろ学生生活支援を含めた総合的支援が求められている。また、従来のASD圏学生支援に関する未解決の潜在的課題が顕在化しており、根本的な問い直しの段階に来ていると思われる。現在、ASD圏学生支援に求められているのは、新しい支援技法というより、むしろ新しい発想や視点、支援の枠組みではないかと考えており、今後の研究課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
大学入学後長期不登校、抑うつ状態等の適応上の問題を示して自閉症スペクトラムであることが判明する(未診断)学生の存在は、学業と社会生活では適応のためのスキルが異なっていることを示している。また、自閉症スペクトラム圏学生を支援するには従来の個別カウンセリングに加えて、社会適応力の向上や適切な感情表出をできるようにする工夫も必要である。本研究ではソーシャルスキルトレーニングのみならず適切な感情表現トレーニングであるアサーショントレーニングを取り入れたプログラムを実践し、様々な評価尺度やセルフモニタリング等でその効果を定量的・縦断的に評価・分析している。今後も成果の発表とプログラム内容の充実を計画している。さらに成果の発表とプログラム内容の充実を目的として平成26年度に実施したアンケート調査による基礎的研究について、より詳細にわたるデータ解析を行い、プログラムの改良を重ねる。それぞれ、研究成果を順次発表していく予定である。 特にH27年度は①評価バッテリーの検討および②感情の理解と調整の支援プログラムの充実に重点をおいて進める。①については、ASD圏学生が自己評価を行うのに適するように実用的な評価方法の組み合わせを検討する。レノックス・ウォルフ評価法等を用いてASD圏学生に繰り返し評価を行い、その傾向やパターンの分析及び怒りや不安という不快感情の状態を把握することを主眼としてきたが、今後は精神的な耐性・回復力も含んだ評価の在り方を検討する。 ②については、感情の理解と調整を支援するプログラムに加えてトラブル対処と解決策選択のプログラムとする。そのため、支援プログラム全体の構成や内容を再検討する。さらに、2つのプログラムそれぞれの内容を開発することを平行して進める。学習した内容をASD圏学生がセルフチェックできるように工夫し、今年度に実施するグループワークにおいて試行を重ねる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は52円であり、26年度の直接経費はほぼ適切に使用された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は平成26年度の結果と併せて再度結果の解析および検討を行う。保健センター来談者の中で自閉症スペクトラム圏学生でグループワークの対象者の選定を行い、月2回グループワークを実施を予定している。そのためグループワークのファシリテーターとしてカウンセラー1名を予定しており、その人件費を要する。H28年度に最終的な結果の解析を行い、結果を学術集会および論文等に公表する。結果をふまえた成果を公表するために書籍等の購入費、論文の投稿費および英文校正費や国内外への学術集会および他機関の関係者会議への参加費を要する。
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Research Products
(3 results)