2016 Fiscal Year Research-status Report
視覚障害者の学習における手書き行動の有効性と脳メカニズム
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26381350
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Research Institution | National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities |
Principal Investigator |
伊藤 和之 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 自立支援局(併任研究所), 主任教官 (10501091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 麦 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 自立支援局(併任研究所), 教官 (30574488)
中村 仁洋 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (40359633)
池田 和久 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 自立支援局(併任研究所), 教官 (60728153)
幕内 充 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (70334232)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 視覚障害 / 手書き / 学習 / 脳機能画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、手書きによる筆記行動が中途視覚障害者の学習に有効であることを実証する。 平成28年度は、国立障害者リハビリテーションセンター理療教育課程在籍者を対象にした教育心理学的研究として、1.初年度在籍者の漢字力実態調査の継続、2.筆記行動が学習効果に与える影響の検証を実施した。1.については、15名を対象に漢字検定2~10級の問題40問(1問1点)の書取りを行い、平成25年度からの結果に加え75名分として、平均22.9±7.3点、中央値23.0点の結果を得た。学習の基礎となる漢字力は漢検3級レベルとの仮定に対し、3割弱の者は5級以下の状態で理療教育を開始している実態を把握した。 2については、13名(平均38.8±9.9歳、弱視)を対象に、事前知識のない医学英単語20語を、聴くだけの学習Aと、聴いて書く学習Bを交互に行い、各々、直後の短期記憶と、1週間後の長期記憶を測った。その結果、聴くだけの学習Aは短期記憶で、聴いて書く学習Bは長期記憶に効果が高い傾向が再度確認された。 医学的研究においては、中途視覚障害者の手書きによる学習の効用と、その神経基盤を明らかにすることを目標に、6名を対象とし、アイヌ語とフィンランド語各10語ずつ20語の課題を2つ用意し、読みと和訳の録音を3回聴いて記憶した直後に、20語をランダムに提示して和訳を口答する行動実験を行った。正答率50%以上でMRIスキャナに移り、同じ課題で記憶と評価、撮像を行った。1週間後は口答で長期記憶を評価した。2回目の実験は1ヶ月後とした。学習直後の行動実験1セット目の成績は、手書き有の方が手書き無より下がる傾向を示した。MRI内のテスト成績を100とした時の1週間後の行動実験の成績は、普段の学習方法の方が有意に高かった(p<0.05)。MRI撮像では、手書き有時の言語野、補足運動野、視覚野が強く活動していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①本研究における実験、調査等の主な対象者は、成人の中途視覚障害者を想定しているが、視覚障害だけでなく、難病や重複障害を有する者が多いため、対象者が限定され、必要な人数の確保に難を有する。また、理療教育の授業後に研究協力を依頼するため、通院や人工透析を行っている者との調整が必要である。全体として、全ての実験と調査に継続的に研究協力が可能な者の確保に時間を要している。 ②実験プロトコルのうち、提示する課題の検討を繰り返し行っているため。 脳機能実験の実施に当たっては、行動データレベルでの予備的な検討を十分に行う必要があり、若年健常人を対象とした行動課題の策定と、試験データの収集・解析に力点をおき、筆記行動の効用について学習効果との関係を検討した。また、視覚障害者への応用を念頭に、触覚入力による実験環境の準備に当初の予想より時間を要した。 今年度は、被験者である中途視覚障害者については、頭部の手術や体内に金属物がない条件を満たし且つ本研究に該当する者の募集に時間を要したことと、統制群である晴眼者については、中途視覚障害の被験者と、年齢、学歴などの属性を極力揃えるため、被検者募集に時間を要したことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
・理療教育在籍者の漢字読み書き能力の実態調査を継続し、データ量を増やす。主として漢字検定の3級レベルの書取り課題を設定し、定期的な調査を実施し、成績との比較を行う。 ・引き続き、医学英単語課題を修得する模擬授業を実施し、筆記行動の有無によって試験の成績がどのように変化するかについて分析する。 ・本研究の成果物となる鍼灸等理療教育における手書きを活用した教育プログラムを開発する。具体的には、理療教育の教科書に用いられる漢字を形態素分析と漢字検定の級を基準として分類し、教材化を図る。 ・引き続き、大学生などの若年健常者を対象として行動実験データの収集・分析を行い、行動実験としての安定性・有効性を確認しながら、比較対照となる標準データを構築する。被験者集団を青少年期から老年期まで拡大して、手書き行動による識字能力への影響を各年齢層において検討する。これに基づいて、27年度後半から実験条件などの調整を行ったうえで、視覚障害者からも行動実験データを収集する。神経基盤について脳機能計測(機能的磁気共鳴画像)を用いて明らかにする。 ・中途視覚障害の被検者を理療教育課程1年次在籍者に拡大し、学習手段及び方法が確立していない段階で同様の実験を行った場合の、脳機能の相違について検証する。併せて、統制群として晴眼の被験者を募集し、同様の実験を推進する。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、使用予定のMRIの故障等による実験の遅延もなく、22名の実験を実施することができた。本研究は、視覚障害者を対象としているため、求人や個人情報管理、画像検査の実施を慎重に行う必要があり、加えて、実験に使用するMRIは病院のものであるため、研究に使用するための調整に想定以上の時間がかかり、当初の予想より遅れが生じた。 研究者間の打合せに伴う旅費、被験者への謝金をある程度執行できた。実験の結果から、学習方略の確立していない成人の中途視覚障害者と、理療教育を開始して2,3年が経過した者との間で、実験結果に差異があるかについても、一定の結論を見出す必要性が生じた。 以上から、本研究の成果物のひとつである、手書き教育システムの構築に必要な備品、消耗品の選定についても、再検討するに至った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、中途視覚障及び晴眼の被験者への謝金、実験、学会参加の旅費のほか、 本研究の成果物である、タブレットをネットワークで繋いだ理療教育における手書き教育システムの構築に伴う備品及び消耗品を整備する。
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Research Products
(4 results)