2014 Fiscal Year Research-status Report
散乱光の偏光解析を用いた生体組織の構造および形態の解析についての研究
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26390092
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
大槻 荘一 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 研究主幹 (20356653)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 偏光計測 / 光散乱 / シミュレーション / モンテカルロ法 / GPGPU |
Outline of Annual Research Achievements |
単純な球状微粒子およびコアシェル型の球状微粒子が、均一に分散した試料物体による光散乱を、モンテカルロ法に基づきシミュレーションできるプログラムを開発した。微粒子の径および屈折率、ならびに物体の形状、サイズ、および屈折率を任意に設定することができ、試料表面に対し任意の角度で照射光を入射し、物体の内部で光が減衰および散乱する確率分布、物体の表面から放出される散乱光の強度および偏光状態、ならびに物体から離れた任意の位置における散乱光の強度および偏光状態が計算できる。 光が物体内部で複数回の散乱を起こす場合、光の挙動を数式で記述するのはほとんどの場合不可能である。一方、モンテカルロ法は一つ一つの光子の挙動を追跡し、多数の光子について計算を繰り返し、結果を積算することにより、複雑な現象をシミュレートする手法であるが、緻密な結果を得るためには長時間計算を行う必要がある。そこで、計算を高速化するため、並列計算を行う多数のコアを有し、汎用計算に特化した画像処理装置(Graphic processing unit、GPU)を使用した。GPUでは、それぞれのコアにおいて、数10個のスレッド群(ワープ)がメモリを共有しながら、共通した命令を逐次的に実行する。そのため、条件分岐を含む計算では、ワープ内のあるスレッドが分岐命令を実行している間、他のスレッドが休止するため、プログラム実行の効率が低下する。 物体に入射した光子は、①内表面に到達したと判断されるまで、物体内で散乱を繰り返し、その後、②内表面を透過または反射する。また、内表面に到達した光子が反射する確率は10%程度である。そこで、①の計算をGPUに行わせ、②の計算および内表面で反射した光子によるそれ以降の計算をCPUに行わせることにより、計算の高速化を図った。その結果、全計算をCPUで行う場合に比べ、5倍程度の高速化を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
生体組織による光散乱は複雑な現象であるが、適切なモデルを選択することにより、実際の結果をある程度正確にシミュレーションすることが可能である。また、研究を開始してから明らかになったことだが、光散乱の研究は、シミュレーションで十分検討することが不可欠であり、シミュレーションで予測される結果を実験によって検証することが望ましい。したがって、光散乱を行う実験装置の構成も、シミュレーションの結果を考慮する必要があり、今年度プログラムの作成、装置の製作、および実験を並行して行う計画はやや無理があったと考えられる。 シミュレーションを前倒しで行うため、光散乱のプログラムの作成を急いだが、プログラムの構成が複雑であるため、プログラムの骨格の作成およびデバッグに時間がかかった。光散乱のプログラムの作成は本年度でほぼ完了したが、計画通り1年を要した。本格的なシミュレーションはこれからである。そのため、今年度予定していた計画の遂行がやや遅れる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度作成したプログラムを用いて、円筒状および球状の試料物体に対し、照射光を物体表面に対し垂直に入射した場合、物体から放出される散乱光の強度および偏光状態を、試料表面における放出位置および立体角分布としてシミュレーションする。特に、微粒子の濃度が十分小さく、光子が複数の散乱を起こす確率が無視できる条件から、微粒子の濃度を増加させる過程で、散乱光の偏光状態がどのように変化するかを調べる。一方で、生体組織を模擬した平板状試料物体に対し、照射光を試料表面に対し斜めに入射し、散乱光の強度および偏光状態を、放出位置および立体角分布としてシミュレーションする。 前記シミュレーションで得られた結果を検証するため、シミュレーションの結果を十分考慮して、散乱光の偏光状態を測定する装置を設計・製作する。なお、本装置の検出器として、アバランシェ・フォトダイオードおよびCMOS カメラを用い、偏光の計測とイメージングが可能な構成とする。 前記シミュレーションの結果を実験によって検証する。生体組織のモデル試料として、親水性高分子ゲル中に散乱体を分散させた試料を作製し、試料とプリズムの光学的接着法の検討を行い、プリズムを介した測定を行う。不均一モデル試料の作製を行い、散乱光をイメージングにより測定し、偏光状態の分布を調べる。
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Causes of Carryover |
本年度シミュレーションを行うプログラムの作成、装置の製作、および実験を並行して行う計画を立てていたが、研究を遂行するためには、装置の製作および実験に先立ってシミュレーションを行う必要がある。そのため、本年度行う予定であった装置の製作を次年度に行うことに変更し、その費用を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画で本年度製作する予定であった、アバランシェ・フォトダイオードを検出器として散乱光の偏光状態の測定を行う装置を、次年度製作するために使用する。
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Research Products
(2 results)