2015 Fiscal Year Research-status Report
疑似安定過程モデルによる新たな確率過程推測論の基盤構築とその実装
Project/Area Number |
26400204
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 弘毅 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (10380669)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 統計的漸近推測理論 / 確率過程モデル / 擬似安定過程モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主眼は,高頻度観測されるジャンプ型確率微分方程式モデルの漸近推測理論の基盤構築である.本年度は主として以下の結果を得た. (1)擬似安定確率微分方程式モデル(SSDE)について,一種の擬似最尤推定量を提案し,その分布近似(尺度混合正規分布)の理論基礎構築を行った.特に擬似コーシーの場合は擬似尤度が明示的に書けるという大きな利点があるが,これまではモデルの係数関数に他の場合より強い仮定が必要であった.今年度は,この仮定が実は不要であったことが証明でき,結果,提案手法の適用対象範囲が大きく広がった.特に,ランダムな変動に時間遅延がない擬似コーシー型SSDEの場合にも,スケール係数が外生変数・内生変数の両方に依存してよい形で推定量の分布近似を統一的に保障できた.非正規性の強い時間変動高頻度データ解析への適用が期待される. (2)SSDEの特殊で重要な例である局所安定オルンシュタイン-ウーレンベック(OU)過程型回帰モデルの最小絶対偏差型推定方式を提案し,推定量の分布近似法(尺度混合正規分布)を導出した.本結果は,Masuda (2010, Electronic Journal of Statistics)を分布論の観点から拡張・改良する.また,特に安定オルンシュタイン-ウーレンベック過程モデルの場合について,推定・検定における漸近最適現象(収束率,漸近ランダム共分散行列の下限)を明らかにした. (3)一般のエルゴード型ジャンプ型確率微分方程式モデルの係数パラメータ,およびレヴィ測度の汎関数パラメータの2段階推定量を構成し,それらの同時分布の近似法を導出した(欧文誌へ掲載決定).本結果によってパラメータベクトルの適切な分割が可能となり,パラメータ次元の削減による精度安定化の一つの処方箋が確保できた.また,数値実験を通じて提案手法の妥当性も観察できた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下,「研究実績の概要」の3つの項目に沿って述べる. (1)今年度,SSDEモデルを特徴付ける一つの指標である変動指数βが未知の場合の考察が停滞していたが,これまで証明を別個に行う必要があった擬似コーシーの場合までも統一的に扱える理論結果を証明でき,さらに元々課していた仮定を真に弱めることができたのは予期せぬ成果であった.その段階までをまとめた状態で一度プレプリントとして登録しておいた(九州大学,MIプレプリントシリーズ2016).今年度新たに用いた証明論法を用いれば,βが未知の場合の擬似尤度解析も,当初想定したよりも緩い条件下で論じることができるだろうと期待している.これは次年度の主題の一つである. (2)擬似安定レヴィ過程モデルの場合に最尤法の漸近最適性を導出した.欧文誌へ掲載済みである.改訂時に,査読レポートで指摘されたジャンプ分布が非対称な場合を検討し,当初の結果を改良した形で出版できた.一般のSSDEのかなり特殊な場合ではあるが,本結果は一般の擬似安定レヴィ過程モデルの係数同時推定の漸近最適性に関する唯一の既存の結果と思われる.次年度,非線形係数SDDEへの拡張を研究していく. (3)2段階推定法に関する論文は滞りなく採択された.目下,その改良版としてトレンドおよびスケール係数を段階的に推定していく方式を開発・解析中である.これにより,分布近似を陽に行える状態のまま推定対象を明示的に分割し,同時推定ならびに二段階推定の場合と比較して安定かつ計算負荷が小さい推定を図ることが可能となる.目下,証明は順調に進んでいる.
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度では,「研究実績の概要」の3つの項目に集中し,具体的には以下の内容について研究を進めていく. (1)SSDEの擬似尤度解析:経過報告としてプレプリント登録済みであるが,引き続きブラッシュアップ・改良を検討後,投稿する予定).SSDEの多次元化と推定量の数値計算(アルゴリズム)的側面の研究も視野に入れて進める予定である. (2)非線形SSDEの漸近推測の最適性の研究:今後,平成28年度前半に招聘するKulik氏と共同で進めていく.本件は非線形SSDEを対象とすることが最終目的であるが,まずは非対称局所安定OU過程の漸近最適性への拡張を行う. (3)上記「現在までの到達度」で触れた3段階推定方式を構築し,対応する推定量の同時漸近分布を導出する.これにより,係数の許容関数系の拡張とさらなる推定精度の安定化が期待できる.本件は,元々のスケール,トレンド係数の推定量の収束が同じであるにも関わらず,また仮に駆動レヴィ過程が歪んだ分布を持っているかもしれない(パラメータに直交性がない)状況でも適合的な推定方式の構築を可能とする点において,新規性が高いと言える.
|
Causes of Carryover |
28年度前半に,共同研究者のAlexey Kulik氏の招聘,および複数の会議(国際・国内)への参加・講演が確定しており,すべて本研究の主眼に係る業務であり,円滑な研究推進に重要である.それらの渡航費を主とした必要経費に充てるため,当初の予定(当初の配分予定額)を上回る研究費が必要であり,繰り越しを行った.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
共同研究者のAlexey Kulik氏の九州大学への招聘(5月,約2週間),フランス国際会議出席・講演(6月),香港国際会議出席・講演(6月),京都国内研究集会参加・講演(8月),の渡航費・旅費へ必要経費として充当する.
|