2015 Fiscal Year Research-status Report
最新の精密宇宙観測及び素粒子理論に基づくインフレーションの研究
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26400239
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諸井 健夫 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60322997)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ビッグバン軽元素合成 / 暗黒物質 / 真空の崩壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず、ビッグバン軽元素合成を基に暗黒物質の対消滅断面積に対して制限を与えることに成功した。この研究においては、(1)暗黒物質対消滅から生じる反粒子の効果まで含めてビッグバン元素合成で生成される軽元素量を計算する数値計算コードを作成することに成功し、(2)その結果を最新の軽元素量の観測結果と比較することで暗黒物質の様々なモードの対消滅断面積に対し上限を得ている。上記2点は、過去の研究と比べて結果の信頼度を大幅に向上させるものであり、この計算が完成したことの意義は大きい。(この結果は、Physics Letters 誌に掲載された。)今後は特に、今回完成させた数値計算コードを、不安定粒子が存在する素粒子模型に応用することで、超寿命不安定粒子が存在する模型に対する制限を得る予定である。 また、別の成果として、不安定な真空の崩壊率に関する研究を行った。不安定な真空は多くの素粒子模型に現れるため、インフレーション後の宇宙発展をそれらの模型に基づいて考える際、我々の住んでいる真空が現在まで崩壊することなく持続できるかを考察する際、その崩壊率の正確な理解が重要となる。本研究においては、特に真空の崩壊率に対するループ効果を正確に取り入れる数値計算コードを開発した。その結果、ループ効果を正しく取り入れていない計算と比べて、真空の崩壊率のスケール依存性が格段に小さくなることを確認した。さらに、開発したコードを用いて超対称素粒子模型における不安定な真空の崩壊率を計算し、これまでよりも高精度かつ信頼度の高い制限を導くことに成功した。(この結果は、Physics Letters 誌に掲載された。)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】欄にも記述した通り、今年度は暗黒物質対消滅から生じる反粒子の効果まで含めてビッグバン元素合成で生成される軽元素量を計算する数値計算コードを完成させ、それに基づき物理的解析を行うことができた。研究計画調書には、平成27年度中に軽元素合成の数値計算コードを完成することが予定されており、この点に関しては概ね予定通りに研究が進捗していると判断できる。また、研究計画調書には、平成27年度中には長寿命不安定粒子に関する解析を行うと記載されていた。この点に関しては、今年度はまず暗黒物質対消滅がビッグバン元素合成に与える影響の解析を優先することとしたが、この研究も本来行うべき研究であったため、特に問題はないと考える。長寿命不安定粒子に関する解析はすでに開始しており、平成28年中には解析を終えられると考えている。 また、今年度は、もともと予定されていなかった、不安定な真空の崩壊率に関する研究を行い、それを完成させることができた。この結果は、インフレーション模型に基づいた宇宙進化のシナリオを構築する上での基礎となる研究であり、この研究を完成できたことの意義は大きい。 さらに、2015年末より話題となっている、LHC実験における2光子共鳴イベントに関しても研究を行うことができた。 以上、研究計画に記載の部分に関しては予定通りに進展をしていると共に、それ以外の部分に関しても成果を上げることができたため、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はまず、ビッグバン元素合成を用いて長寿命不安定粒子に関する制限を求めるというプロジェクトを進める予定である。【現在までの進捗状況】にも記載の通り、ビッグバン元素合成後にハドロンや電磁相互作用を行う粒子の放出現象を伴う場合の軽元素量計算の数値計算コードについては完成を見ている。そして、それを用いて、暗黒物質対消滅現象に対する制限を得ることに成功している。現在はこの数値計算コードを長寿命粒子を扱えるように改良を行っている段階であり、なるべく早期にその作業を終了させる予定である。その後、様々な素粒子模型に数値計算コードを応用することにより、長寿命不安定粒子に関する制限を導出することができると考えている。 また、平成27年度から開始した不安定な真空の崩壊率に関する研究も継続して行っていく。特に、真空の崩壊率を考慮することで様々な素粒子模型に対して制限を与えることができると期待される。一例として、超対称模型においては超対称粒子の質量が大きすぎると真空の崩壊率が大きくなりすぎて問題が引き起こされるということが想定される。平成28年度には、そのような現象に対する制限を明らかにすると共に、超対称粒子の質量スケールに対して制限を与えることを予定している。また、これまでの研究で明らかとなっていない、ゲージ粒子が関与した場合の真空の崩壊率に対する輻射補正についても研究を進めていく。 さらに、平成28年度の夏には、LHC実験における2光子共鳴に関しても、それが本当に存在するかどうかが明らかになると考えられる。もしもその存在が高い精度で確認された場合は、そのような2光子共鳴を含む素粒子模型に関しても研究を行い、インフレーションやその後の宇宙進化の整合性との議論を行う。
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Research Products
(11 results)