2015 Fiscal Year Research-status Report
カイラル対称性を持つ格子QCDによるフレーバー物理の研究
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26400259
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
金児 隆志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (20342602)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子色力学 / 格子ゲージ理論 / 数値シミュレーション / フレーバー物理 / 新しい物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チャームクォークの弱崩壊形状因子の計算を本格化させるとともに、準備研究として行った電磁形状因子の研究を論文にまとめ、発表した。 形状因子は、ハドロンが強い相互作用による束縛状態であることの効果を表す物理量である。強い相互作用の基本的性質の理解のための基礎物理量であるだけでなく、ハドロン反応の精密測定実験による新物理の探索においても重要な物理量である。しかし、摂動論などの解析的手法で計算することが難しい。本研究では、格子QCDの数値シミュレーションによって、弱崩壊の形状因子を精密に計算することを目指している。特に、我が国で進められているSuperKEKB/Belle II実験で重要となる重いハドロンの形状因子を計算することを第一目標としているが、重いハドロンを格子にのせるには幾つかの困難が存在する。そこで、まず、準備研究として、軽い中間子の電磁形状因子と弱崩壊の形状因子を計算し、カイラル摂動論と呼ばれる有効理論の予言式との整合性を検証し、論文として発表した。 この予備研究に基づいて、運動量遷移などの基本パラメタを選定し、重いチャームクォークを含む中間子の形状因子の計算を推し進めている。重い中間子の研究でまず問題となるのは統計精度である。そこで、予備研究で得られた知見に基づいて計算手法を改良し、形状因子の統計精度を数%にまで高めた。これは、海外で行われている最先端の研究と比べても遜色の無い精度である。 次いで問題となるのは、格子の離散化誤差である。そこで、格子間隔を変えた計算によって離散化誤差の大きさを検証するとともに、最低次の摂動論に基づいた計算手法の改良を試みている。 以上の準備に基づき、重いハドロンの形状因子の精密計算を推し進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
格子QCDの数値シミュレーションでは、ゲージ場の配位の生成と、生成した配位を用いた相関関数の計算に膨大な演算量が必要となる。強力な計算機を使い、また、シミュレーションアルゴリズムを改良することにより、前者は予定を若干前倒しして完了することができた。 後者についても、電磁形状因子の予備研究に基づいてシミュレーションパラメタを選定し、また、統計誤差、離散化誤差を削減する方法の開発・テストを行った。相関関数の計算に注力するためのこれらの準備を予定通りに整え、相関関数の実計算を開始した。 以上から、本研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
既に開始した相関関数の計算を推し進め、チャームクォークを含む重いハドロンの形状因子の研究を行う。崩壊比などの実験データを併せて用いることにより、関連する小林・益川行列要素を高精度で決定し、新物理の探索へとつなげる。 統計誤差と離散化誤差を削減する手法については、上述のように、開発とテストを行った。次いで問題となるのは、現実世界より重いクォーク質量で計算したシミュレーション結果を現実世界のクォーク質量に外挿するカイラル外挿の不定性である。これについては、電磁形状因子の予備研究によって理解を深めることができた。さらに、実際のシミュレーションデータとカイラル摂動論や重クォーク有効理論の予言式を詳細に比較することにより、不定性を正しく評価し、かつ、できるだけ削減した解析を行うことが、本研究の最大の鍵となる。 また、本研究で生成した場の配位は、バリオン行列要素を含む他の物理量の計算にも用いることができる。本研究で生成したデータをより幅広い物理に応用する可能性も併せて検討したい。
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Causes of Carryover |
日本物理学会年次大会が他分野の学会と重なり宿泊先が確保ないことなどがあり、国内出張の予定を変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は最終年度であり、成果発表も重要な研究活動となる。そこで、次年度使用額は成果発表を充実させるために使用する。
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