2015 Fiscal Year Research-status Report
多重極限環境下で発現するクォーク・グルオン多粒子系の相構造並びに諸物性の研究
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26400277
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
津江 保彦 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 教授 (10253337)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | クォーク物質 / QCD相構造 / ハドロン物質 / カイラル対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
強い相互作用により支配されるクォーク・グルオン、及びハドロン多体系が、高温・高密度・強磁場などの多重に及ぶ極限環境下におかれた際に実現される真空構造、その上での粒子励起モードや相構造・相転移、及びこれらの多粒子系が各相で示す物性を解明することを本研究課題の主目的としている。平成27年度の研究実績の概要は以下のとおりである。1.高密度でのクォーク物質が自発磁化を持つ可能性について、量子色力学(QCD)の有効模型として南部・Jona-Lasinio模型を用いて考察した。クォーク間にテンソル型の4点相互作用が働く際には、高密度でクォークスピンが偏極したスピン偏極相が現れることを昨年度示している。系に外部磁場を与え、その応答を調べる事でこのクォーク物質が自発磁化を持つか調べた。結果としてそのままでは自発磁化を持たないが、クォークの異常磁気能率まで考慮すると自発磁化を示し、クォーク物質は高密度で強磁性相を示す可能性を指摘した。また、中性子星内部を考えると、10^14~10^15 G 程度の強磁場を与えうることを示唆した。得られた結果は学術論文として公表した。2.スピン偏極とカイラル凝縮の共存・競合の問題を考察し、モデルの妥当と考えられるパラメータ領域の範囲内ではあるが、低密度領域ではカイラル凝縮のみが、一旦カイラル対称性が回復した後高密度ではスピン偏極のみが現れることを明確にした。3.非一様カイラル凝縮相の研究を行い、カイラル対称性、並進・回転対称性が破れる際の基底状態、励起モードを考察し、分散関係や揺らぎの相関を調べ、非一様カイラル凝縮相の励起モードの安定性を考察し、学術論文として公表した。4.多体系を代数的に扱うモデルとして簡単なsu(2)代数模型を取り上げ、新しいボソン実現を与える一般論を添加し、論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高密度クォーク物質に磁場を課した場合の応答から、高密度クォーク物質が自発磁化を持つかを考察した。クォークの異常磁気能率の効果で自発磁化を持ち、強磁性相になる可能性を指摘し、中性子星の内部で部分的にクォーク物質相が実現していれば、その密度の高さから星の表面では10^14~10^15 G程度の強磁場が実現する可能性を示し、微視的なクォーク物質の理論計算をマクロな中性子星の観測事実と関連させ得る可能性を指摘でき、研究は確実に進展していると言える。また、テンソル型相互作用によるテンソル型凝縮によりスピン偏極は実現するが、この凝縮を通してカイラル対称性は破れている。そこで、従来のカイラル凝縮によるカイラル対称性の破れとの共存・競合を調べ、低密度ではカイラル凝縮によりカイラル対称性は破れ、密度を上げていくとカイラル対称性はいったん回復するがその後テンソル凝縮によりカイラル対称性は再び破れることを初めて示した。クォーク物質の研究だけでなく、簡単な代数模型ではあるが、多体系の取り扱いの一般論として新しいボソン実現の提案も実行することができた。この内容は当初の計画になかったものであり、以上から、研究は計画以上に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に行った研究の展開として、外部磁場のもとでのクォーク物質相の振る舞いを調べる。最低ランダウ準位が本質的な役割をする強磁場のもとで、クォーク物質はどのような相を示すかを明らかにすることを計画している。また、平成27年度にはカイラル凝縮とスピン偏極の共存・競合を調べたが、高密度クォーク物質はカラー超伝導を示すことが多くの研究で示唆されていることから、スピン偏極とカラー超伝導の共存・競合について、有限温度・密度クォーク物質において調べる事を計画している。さらには、スピン偏極は南部・Jona-Lasinio模型では擬スカラー型4点相互作用からも生じる。この相互作用も含めて考察することは重要であり、擬スカラー型、テンソル型双方の相互作用から生じるスピン偏極相についても考察を進める。擬スカラー型相互作用から生じる擬スカラー凝縮は、ユニタリー変換で非一様カイラル凝縮と同等であることが最近、内々に明らかにできた。そこで、非一様カイラル凝縮相との関係をも明らかにできる見通しを持っており、この方向にも研究を進展させることを計画している。
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Causes of Carryover |
計画では8月または2月から3月にかけておおよそ3週間ほどポルトガル国コインブラ大学の研究協力者であるJoao da Providencia 教授のところに滞在し、研究討論を行うこととしていたが、管理職(理学部門長)の業務に加えて所属する学部の改組(平成29年度理学部から理工学部への改組)計画のもと、部門長としても多大な協力を行い、書類作成・チェック等きわめて多忙なこととなり、長期に大学を留守にすることが出来なくなった。そのため、3月に1週間の短い滞在にせざるを得ず、宿泊代等が計算違いとなり、次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度にもJoao da Providencia 教授のもとに滞在する予定であったが、加えてConstanca Providencia 教授からは中性子星の構造計算の数値プログラムを動かして計算することが提案されており、その打ち合わせ等の旅費・滞在費に充てる。さらに核物理国際会議(INPC2016)で研究成果の発表の機会が与えられれば参加を計画しており、そのための旅費・滞在費等も必要となってくるので、繰り越しを有効に活用する。
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