2015 Fiscal Year Research-status Report
スピンアイスにおける磁気モノポールのダイナミクスの解明
Project/Area Number |
26400336
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高津 浩 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (60585602)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピンアイス / 量子スピンアイス / 磁気モノポール / スピン液体 / 多極子 / Tb2Ti2O7 / Dy2Ti2O7 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はTb2Ti2O7の「量子スピンアイス」状態に創出する磁気モノポールのダイナミクスを明らかにするため、量子スピンアイス状態とその近傍に現れる”隠れた”長距離秩序状態の関係や秩序パラメーターの解明を目指して研究を行った。具体的には以下の研究実績を得た。
①Tb2Ti2O7はTb2+xTi2-xO7のように表せるxの違いのために育成した単結晶にしばしば大きな濃度勾配が現れる。本年度は、まず、単結晶育成条件の最適化を行うことにより濃度勾配が現れる問題点を解決し、xを制御した純良大型単結晶を作ることに成功した。そして、長距離秩序相はTb/Tiの組成比率が1からわずか1%以内の極微少量組成の中に現れることを明らかにした。また、長距離秩序の性質を示す単結晶(x= 0.005)を使って比熱・磁化・非弾性中性子散乱実験とその解析を行い、長距離秩序の秩序パラメーターがTb3+が持つ多極子自由度であることを明らかにした。この結果は、これまで数多く研究されてきたパイロクロア格子上のフラストレーションと磁性の関係に加えて新たに多極子の自由度が重要な寄与を及ぼすことを意味する興味深い結果であり、”frustrated quadrupolar system”といえる新しい量子状態を研究できる可能性が浮き彫りとなった。結果は論文にまとめた。
②低温まで長距離秩序を示さない単結晶(x < -0.025)を作成し、量子スピンアイス状態に創出する磁気モノポールの性質を調べた。具体的には、0.1 Kまで測定可能な極低温比熱測定装置を開発して様々なx値の単結晶の低温比熱測定を行った。その結果、高温の常磁性状態からT = 0.4 K近傍で量子状態に移り変わることなどがわかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古典スピンアイス物質Dy2Ti2O7の類縁物質である量子系のTb2Ti2O7の単結晶を用いた研究を展開し、量子スピンアイス状態やその量子状態を背景に創出する磁気モノポールの性質を調べることが出来たため。またTb2Ti2O7の単結晶はこれまでTbとTiの不定比率の違いによる濃度勾配が原因でその性質を十分に調べることが出来なかったが、その問題点を解決して純良で大型単結晶を得ることができるようになったので研究が大きく進展したため。
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Strategy for Future Research Activity |
①引き続き量子スピンアイスの性質を示すと目されるTb2Ti2O7の単結晶を作成して、量子揺らぎを持つ基底状態に創出する磁気モノポールのダイナミクスを実験的に研究する。極低温の比熱測定実験に加え、交流磁化率などからもそのダイナミクスを調べる。また非弾性中性子散乱実験からスピン多極子複合励起と考えられるダイナミクスを調べる。
②類縁のスピンアイス物質の単結晶を用いてカゴメアイス状態の交流磁化率を調べる。スピンアイスの磁気モノポールのように磁性体に現れるトポロジカルな励起現象の性質やそのダイナミクスの一般性をより鮮明にする。
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Causes of Carryover |
2016年9月に開かれる磁性体研究の国際学会HFM2016に参加して研究成果を報告するための旅費や研究論文の成果発表の費用が必要であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度の科研費は、まず、学会などに参加するための旅費に使う。また論文の掲載料の費用として使用する。残りの研究費は単結晶育成のために目的物質の原料費に充てる。また育成容器としてPt坩堝や石英管、浮遊帯域炉用ランプなどの消耗品を購入する。
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