2016 Fiscal Year Research-status Report
磁場下における超流動ヘリウム3の横波音響インピーダンスと特異な表面状態
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26400364
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長登 康 広島大学, 情報メディア教育研究センター, 助教 (60294477)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超流動液体ヘリウム3 / アンドレーエフ束縛状態 / 音響インピーダンス / 磁場効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続いて、境界面に平行な磁場が掛かった超流動液体ヘリウムの音響インピーダンスを計算するために、この系の超流動秩序パラメータの安定解を準古典的グリーン関数法を用い網羅的に探索した。このような乱雑な境界を持つ超流動半無限系が磁場の向きによってどのような超流動秩序状態となるかについては、70年代にGL理論による研究は行われているものの、GL理論が適用できない転移温度から離れた状態での議論は行われていなかった。 この系では微小である双極子相互作用が重要な役割を果たしているが、数値的な取り扱いをするうえで困難を引き起こすものであり、それが GL 理論以降の理論研究が行われてこなかった理由の一つであった。準古典的グリーン関数法ならびに高速な計算機のおかげで、GL理論の適用外領域の研究が可能となった。 長時間にわたる膨大なの数値計算の結果、ギャップ方程式を満たす幾つかの解が得られ、それらの自由エネルギー比較から、1970年代に行われたGL理論による結果に類似する秩序パラメータ解が最も安定であることが明らかになった。その一方、自由エネルギー的にこの GL 的な解に近接した別の準安定解が存在することも分かっており、その解が準安定状態として実現する可能性も残されている。 また最も安定である GL 的な解の対称性を解析することにより、実はこの安定解が垂直に磁場が掛かった系での秩序パラメータに対してスピン空間の回転を行った解に相当していることが示された。その事実から音響インピーダンスの結果が磁場の向きに依存しないことも明らかとなった。 これらの成果は、2016年秋の物理学会、2017年の物理学会年次大会にて中間報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、境界面に平行な磁場が掛かった超流動液体ヘリウムの音響インピーダンスを計算するために、その系の超流動秩序パラメータの安定解を網羅的に探索した。取り扱う系が半無限系であることに加え微小な双極子相互作用を数値的に取り扱う必要があるために膨大な時間が掛かっており進捗にやや遅れが生じている。温度・磁場強度・境界面の乱雑さ・双極子相互作用の大きさをパラメータとし、ギャップ方程式を数値的に扱うことで秩序パラメータを自己無撞着に求めた。パラメータの選び方に依存するが、ギャップ方程式を満たす解が複数存在するので、どの解がエネルギー的な安定解であるか判断するために自由エネルギー計算も行った。 微小量である双極子相互作用による効果は秩序パラメータの決定において重要な役割を果たしている。一方で、双極子相互作用は微小量であるがゆえにギャップ方程式の解の収束性が悪く、安定解を数値的に求めることが難しい。そこで、まず双極子相互作用の大きさを大きめな値として計算し、次にこの相互作用の大きさを少しずつ減じていく操作を繰り返しつつ計算することでギャップ方程式の解を求めた。また、磁場の大きさも秩序パラメータの決定に大きな影響を与えることが分かっているが、垂直磁場下での音響インピーダンス実験で用いられているような数百~数千ガウス程度の磁場を想定した。 長時間の数値計算の結果、1970年代に行われたGL理論による結果に類似する秩序パラメータ解が安定であることが分かった。この解は、垂直に磁場が掛かった系での秩序パラメータに対してスピン空間の回転を行ったものに相当していることが解析的に示された。その事実から音響インピーダンスの結果が磁場の向きに依存しないことが明らかとなった。 これらの成果は、2016年秋の物理学会、2017年の物理学会年次大会にて報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究では、磁場の強さは実験で使われているような数百~数千ガウス程度を想定して行ったものであった。この磁場が数十ガウス程度まで小さくなった際には、双極子相互作用の効果が相対的に大きくなってしまうため、H28年度に得られた結果とは全く異なる物理が見られると期待される。この点について数値計算を用いて研究を進めることがひとつ挙げられる。 もうひとつは、我々の構築した準古典的グリーン関数法から出発して、70年代の GL 理論の再構築を行い、より精密な議論を行うことである。旧来の Eilenberger 方程式を解く準古典的グリーン関数法とは異なって、我々の構築した準古典的グリーン関数法は境界条件を満たした形でグリーン関数が定式化されており、解析的に議論を行うことが容易であるという特長を持つ。この利点を用いれば、準古典的グリーン関数を GL 展開することでより精密な GL 理論を展開することが期待できる。また、従来の GL 理論では導くことができなかった、準安定な秩序状態についても明らかにすることができると期待できる。
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Causes of Carryover |
本研究の第二年次計画の進捗に遅れが生じたことにより、研究期間延長を申請・承認された。当初の最終年度経費を有効に活用するために予算を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越年度は最終年度なので、主にこれまでの研究成果を発表するための物品費旅費等に用いる。
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Research Products
(2 results)