2016 Fiscal Year Research-status Report
限定アクセス下の高次元量子多体系のシステム同定と全系制御
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26400400
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
丸山 耕司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 客員准教授 (00425646)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 豪 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, メディア情報研究部, 主任研究員 (20396188)
尾張 正樹 静岡大学, 情報学部, 准教授 (80723444)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子制御理論 / 量子システム同定 / 限定アクセス / 制限アクセス |
Outline of Annual Research Achievements |
多体量子系を小さな部分系Sと残りの部分系Eに分け、d_S次元のSに対してはリー代数su(d_S)の任意の操作が実行可能であるとし、d_E次元のEはS以外の外界とは一切相互作用しない状況を考える。これはもちろん、多体量子系SEへ侵入するノイズを最小化するためのシナリオであるが、人為的アクセスが制限されることで、量子制御や系の同定の可能性が本質的にどのように制限されるかは明らかではなかった。 本研究では、限定アクセスによって引き起こされる代数構造、ヒルベルト空間の構造の変化を詳細に調べた。その結果、E系のヒルベルト空間H_Eはより小さな部分空間の直積の直和になっていること、つまりH_Bj \otimes H_Rjの様々なjについての直和構造をなしていることがわかった。全系ハミルトニアンH_SEとsu(d_S)から生成される動的リー代数は、H_Rj \otimes H_Sに作用する作用素と、H_Bjに作用する作用素に分類され、H_Bjのみに非自明な作用をもたらすものの効果はSでの観測には現れず、またSでの操作の影響もH_Bjには及ばない。 さらに重要なことは、この構造がSの次元d_Sに依存することである。3次元以上のときには各H_Rjでsu(d_Rj)がSを通して実行可能であるが、d_S=2のときには各H_Rjを独立に制御したり、任意のsu操作を施すことができない場合が存在する。そして、d_S=3でH_Rjに対して可能な量子制御は、Sにアンシラ系を付与してd_Sを大きくしても変化しないことなども見出した。 こうした事実は、アクセスが限定された条件下での普遍的構造であり、各物理系について動的リー代数を都度計算するだけでは得難い情報である。現実の量子制御の場面では、多かれ少なかれアクセスは制限されるため、空間、代数構造の理解は何が可能かを見極める上で重要な知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多体量子系制御において、アクセスが限定されたときのヒルベルト空間、代数構造の特徴づけを明確にできたことは当初の期待を上回る結果である。これにより、前の研究で見出していたSからは区別できないE内の状態、ダイナミクスの物理的裏付けも与えることができる。また、Sでの操作にsu(d_S)だけでなくCPTP写像を含めた場合などの状況へも考察範囲を広げることができ、限定アクセス下(という非常に一般的状況)での量子制御の理論の一般論構築へ大きく前進した。テーマを絞った数本にわたる論文を現在執筆中である。 さらに、具体的な物理系として3スピン系とみなせる分子に関し、ESRを用いた電子スピンのみの制御で他のふたつの核スピンに非自明な論理ゲートを適用する数値計算も行い、実際の分子の物理的特徴をうまく活用する検討を行った。これについても論文を執筆、投稿、現在審査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
多体量子系制御の一般論構築を目指すという意味において、もっとも基本となる「何ができるか」の問いに対して、本研究でその道筋をつけることができたと考えている。今後は、その精緻化、特にS系に対する種々の操作に対してのE系の応答の特徴付け、そして誤り訂正の問題に取り組む予定である。S系から侵入するノイズによるエラーを訂正するには、S系の構成に様々な条件が課せられることが予想されるが、どのようなものかはまったくわかっていない。理論構築のみならず、量子制御技術での実践を視野に入れる上では必須となる課題であり、これを追究していきたい。
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Causes of Carryover |
当初想定した以上に、量子制御理論の数学的一般化が進展、研究遂行、論文執筆にさらに時間を要することとなっため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題による成果を複数の論文にまとめるため、執筆作業に関して打ち合わせをする際の旅費、あるいは投稿料にあてる予定である。
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