2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26400442
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
日置 幸介 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30280564)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地震前兆 / 電離圏全電子数 / チリ地震 / 宇宙天気 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年二月にJGR誌上で我々の研究結果を批判する論文(Masci et al., 2015)が出版され、平成27年度前半はそれらの反論が正しくないことを同じくJGR誌に論文として報告した(Heki & Enomoto, 2015)。その中で、地震前に発生する電離圏全電子数(TEC)の異常に関して、(1)電子数の変化率の急変が赤池情報量基準を用いて数値的に検出できること、(2)それらの変化の大きさと先行時間が後に発生する地震のモーメントマグニチュードと高い相関を持つこと、(3)地震と関係なく宇宙天気(地磁気活動)によって起こる変化について発生頻度等を統計的に求めて、地震前の変化がそれらによるものと解釈することは不可能であること、を示した。平成27年度後半は、九月にチリ中部でマグニチュード8.3の地震が発生したことから、その地震に先立って生じたTECの変化について系統的に研究を行った。またその結果を2014年のチリ北部の地震(M8.2)および2010年のチリ中部の地震(M8.8)と比較して論文としてまとめ、平成27年三月にGRL誌に投稿した(He & Heki, under review)。その中で、南半球においてはTECの上昇域が震源北の高度約200kmに生じ、TEC減少域がそのさらに北の高度約400kmのところに生じることを示した。この上昇域と減少域のペアは、地表に生じた正電荷に対する電離圏の応答として知られている現象(Kuo et al., 2014)と調和的であり、一連の現象のメカニズムとして地表の正電荷である可能性が高まったと考えられる。さらにさまざまな状況で電離圏全電子数を観測する過程で、地震に先立つ異常の他にスポラディックE層に伴う異常や火山噴火に伴う異常等も見いだされ、それらのいくつかが論文となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展した要因として、2015年九月にチリで発生したM8.3のIllapel地震の存在が大きい。日本列島には非常に稠密なGNSS(全球航法衛星システム)受信機網があり、それを利用した詳細な電離圏全電子数(TEC)マッピングが可能だが、日本列島は南北に細長い島弧であるため広範囲のTECの空間構造を把握するのには適していない。一方南米大陸のチリ、アルゼンチン地域は広い範囲にGNSS局がまんべんなく分布しており、地震直前に生じるTEC異常の三次元空間構造を把握するのに適している。平成27年度の研究の進展にもこれらのデータを用いたIllapel地震前のTEC異常の解析結果が大きく貢献している。また本プロジェクトの過程で整備したTECの解析システムを用いたスポラディックE層の観測や火山噴火に伴う電離圏擾乱の観測等の予期しない成果も上がった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年5月に生じたネパール地震と、平成28年4月に起こったエクアドル地震は、それぞれマグニチュードが7.8であり、これまで地震直前の電離圏全電子数(TEC)の変化の観測対象に含まれていなかった。しかし、いずれの地震もTECの絶対値が大きな赤道異常の直下で発生しており、比較的小さな地震にもかかわらず明瞭な地震直前のTEC上昇が確認された。またその先行時間も20分弱であり、小さな地震ほど先行時間も短いというこれまでの知見と調和的である。平成28年度の課題の一つとして、対象とする地震をM7級の比較的大きなものに広げることが挙げられる。また物理機構の同定に関しても、他機関で進行している様々な計測(地震前の静電場観測や実験室における破壊前の岩石からの電荷の拡散等)の情報を参考にしながら研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
小さな端数の残額であったため、次年度に有意義に使用するために繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の旅費にプラスして使用する予定である。
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Research Products
(10 results)