2015 Fiscal Year Research-status Report
沈み込む海洋地殻中の地震波速度異常のメカニズムの解明:室内実験によるアプローチ
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26400492
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
上原 真一 東邦大学, 理学部, 准教授 (20378813)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地震波速度異常 / スロースリップ / 高Vp/Vs比 / 高ポアソン比 / プレート沈み込み帯 / 弾性波速度測定室内実験 / 亀裂密度 / ドレライト |
Outline of Annual Research Achievements |
沈み込みプレート境界の地震波速度異常域において発生するスロースリップ(通常の地震よりもゆっくりすべる)や低周波微動などの現象は,海溝型巨大地震の発生と密接に関係することが指摘されており,その発生メカニズムの解明が期待されている.そこで本研究では,海洋地殻の主要な構成岩石を対象に,人工的にダメージを与えた岩石試料について,応力と,P波・S波速度Vp,VsおよびVp/Vs比との関係を調べることにより,速度異常域がどういう状態の岩石で構成され,どのような応力条件にあるのかを明らかにすることを目的とする.この成果は,非地震性滑りの発生モデルの高度化させ,大地震の発生予測へとつながる一歩となると期待される. 2015年度までに実施した,応力下でのVp・Vs・Vp/Vs比の測定実験の結果と前年度までの結果を合わせることによって,本研究で用いたドレライト(粗粒玄武岩)試料について,Vp/Vs比が2.0以上を示す(スロースリップ発生領域での観測値に相当)ための,間隙圧(有効圧)・間隙率条件が明らかとなった.特に,間隙圧が高くてもVp/Vs比が2.0以上にならない間隙率の条件(臨界間隙率)が存在することが示された.このことは,観測されている高Vp/Vs比領域では,高間隙圧だけでなく,間隙率もある程度高いことを示唆する. また,実験試料について,薄片観察による亀裂分布の観察およびその密度の測定を行った.その結果,亀裂密度とVp/Vs比には正の相関が見られた.一方,500℃と700℃で加熱した試料を比較すると,間隙率はほぼ等しい(差は0.1%)が,亀裂分布の様子(基質部での網目状亀裂の発達や亀裂の連結性など)に明瞭な違いが見られた.これらの試料では弾性波速度やVp/Vs比には明瞭な違いが見られたことから,これらの性質は,間隙率の値だけでなく,亀裂分布の様子に依存することが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は,微少亀裂を生成したドレライトについて,応力下でのVp・Vs測定および偏光顕微鏡による亀裂分布の観察および亀裂密度の測定を実施することで,Vp/Vs比と間隙圧・間隙率,および亀裂分布の関係性を明らかにした.これは,交付申請書に記載した「研究の目的」である「速度異常域がどういう状態の岩石で構成され,どのような応力条件にあるのかを明らかにする」に対して,ある一定の成果が得られたことを示す.また,天然の岩石との比較についても,高知県四万十帯で採取した変成玄武岩試料中の脈の観察を実施しており,順調に進んでいるといえる. 軸載荷過程によって微少亀裂を生成した岩石のVp・Vs測定については,軸載荷用のプレスシステムについては構築の目処が立った一方で,軸方向の弾性波速度測定システムについてはいまだ検討中である. 以上述べたように,本研究の目的に対しある一定の成果が得られた一方で,翌年度に持ち越しとなった課題もあるという状況を鑑み,全体としてはおおむね順調に進展していると評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2016年度は,主に以下の課題に取り組む. 1. 亀裂の分布とVp/Vs比の関係性に関する理論的考察:前年度までに得られた亀裂の分布とVp/Vs比の関係性について,既存のモデルを踏まえた定量的な考察を試みる.必要に応じて,追加の観察・測定を行う. 2. 人工・天然の亀裂内部構造の観察および比較:四万十帯で採取した変成玄武岩試料について,その内部の脈の構造を観察・測定し,人工的に生成した亀裂の分布の特徴と比較する. 3. 軸載荷過程によって微少亀裂を生成した試料についての地震波速度測定:前年度までに実施できなかった本課題について,試料のサイズを適切なものに調整する(小さくする)などにより検討課題を克服することで実施を試みる.
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Causes of Carryover |
2015年度の余剰分は,当該年度所要額の2%未満であることから,予算使用の状況はおおむね計画通りであったといえる.この余剰分の生じた主な理由は,予算計画と実際の執行状況における使用項目の価格や個数などの違いによるものである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述の「今後の研究の推進方策 等」にのっとり,2016年度の予算の主な使用計画は次のとおりとする: 1. 実験試料の作成,および実験試料・天然岩石中の亀裂・脈分布観察に関する費用:薄片作成の外部発注,岩石整形における消耗品,外部機関での試料作成・観察に関する費用(出張費を含む)等. 2. 軸載荷過程の地震波速度測定に関する費用:実験装置関係(荷重変換機,動ひずみアンプ,実験用ピストンなど),実験消耗品(圧電素子,熱収縮チューブなど). 3. その他,国内学会参加費など.
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