2014 Fiscal Year Research-status Report
脂質膜のメカノアシンメトリー:圧力研究から見えてくる脂質分子非対称性
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26410016
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
松木 均 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (40229448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉井 伸岳 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (00363135)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 脂質膜 / 高圧力 / 相転移 / 指組み構造 / 非対称脂質 / ホスファチジルコリン / メカノアシンメトリー / 膜内イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
脂質膜研究において使用されている脂質の多くは、主に2本の疎水鎖が等しい分子構造を有する対称型グリセロリン脂質である。他方、実際の生体膜中には、グリセロール骨格のsn-1位とsn-2位に結合している疎水基鎖長が異なるものや両位置に異なる分子構造の疎水基が結合している非対称型リン脂質も数多く存在している。近年、我々は幾つかの非対称型ホスファチジルコリン(PC)二重膜に関する熱力学的研究を行い、非対称型PC二重膜が引き起こす相転移や様々な相状態を温度―圧力相図や相転移熱力学量から明らかにしてきた。本研究では、非対称リン脂質二重膜の高圧力研究を継続、発展させ、脂質分子内非対称性に起因する脂質膜の力学的非対称性(メカノアシンメトリー)を調査する。 初年度は、sn-1位とsn-2位のアシル鎖炭素数の差が4つである飽和非対称型PC脂質、1-ミリストイル-2-ステアロイルPC(MSPC: C14C18PC)およびその位置異性体である1-ステアロイル-2-ミリストイルPC(SMPC: C18C14PC)を選択し、両非対称型PC二重膜の相転移を観測した。得られた結果をアシル鎖全炭素数が等しい飽和非対称型PC脂質、ジパルミトイルPC(DPPC: C1616PC)二重膜のものと比較し、脂質二重膜相挙動への鎖非対称性効果を考察した。リップルゲル相の安定性は非対称度(アシル鎖先端のミスマッチ)が小さい程、高くなること、また、指組み構造ゲル相形成と非対称度には明瞭な相間があることが判明した。さらに、これら両脂質二重膜の副転移に伴う熱力学量は非常に大きな値となり、対称型PC二重膜よりも安定なサブゲル相を形成することを明確にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画は、sn-1位とsn-2位の鎖間のミスマッチが大きな飽和非対称鎖を有する非対称型PC脂質とその位置異性体脂質(SMPCとMSPC)を選択して、それらの二重膜相転移の調査である。常圧下における非対称型PC二重膜の相転移を示差走査熱量測定で、高圧下では光透過率測定で追跡し、得られた相転移温度および圧力データから両非対称型PC二重膜の温度-圧力相図を構築した。アシル鎖間のミスマッチが比較的小さいSMPCの二重膜では圧力誘起指組み構造化が起こったが、ミスマッチが大きなMSPCの二重膜では指組み構造化は起こらず、対照的な結果を得た。また、両PC二重膜は副転移温度が前転移温度よりも高温側に位置するために非常にサブゲル相を形成し易いことがわかった。特にSMPC二重膜では、この性質のため常圧から100 MPa 程度までの高圧領域において前転移は観測できなかったが、さらに高圧力下で観測可能なラメラゲル相から指組み構造ゲル相への相転移を蛍光プローブProdan用いた高圧蛍光プローブ法により捉えることに成功し、SMPC二重膜の圧力誘起指組み構造形成を確証することができた。 本年度は、当初、高圧蛍光プローブ法により、SMPCとMSPCの両非対称型PC二重膜に対して膜内分子充填状態に関するイメージマップを作成する予定であった。しかしながら、SMPC二重膜の温度-圧力相図の構築に同法を用いて高圧力下における相転移点を決定していたこともあり、同法による両PC二重膜のイメージングは次年度に実施することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験からSMPCとMSPCの両非対称型PC二重膜の温度-圧力相図を構築したので、両PC二重膜の温度-圧力相図を参照しながら、一定圧力下における温度走査および一定温度下における圧力走査を行いながら蛍光プローブ測定を実施する。得られた蛍光スペクトルの二次微分解析から得られる両PC二重膜のイメージマップを対称型PCであるDPPCの二重膜のものと比較して、非対称型PC二重膜の膜内分子充填状態と鎖非対称性との関連性を検討する。 続いて、鎖非対称に依存した指組み構造形成について焦点を当てる。対称型PCでは、完全指組み構造しか形成しないが、飽和鎖を有し、非対称性が大きな(sn-1位とsn-2位の鎖間のミスマッチが6つ以上のもの)PC脂質、C16C10PCやC18C10PCおよびそれらの異性体については、加圧により完全指組み構造に加えて、部分指組み構造および混合指組み構造を形成する可能性があり、興味が持たれる。これらの脂質は脂質試薬メーカーからの市販品は販売されていないので、有機合成や酵素反応処理により作製することが可能かどうかを検討した後に実験を進める。もし、非対称性が大きなPC脂質の実験が困難な場合には、飽和鎖とオレイン酸やリノール酸のような不飽和鎖との混合鎖を有する非対称型混合鎖PC(例えば、1-パルミトイル-2-リノレイルPC(PLPC)やその位置異性体のLPPCなど)に対象脂質を変更して、研究を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額80,000円は、備品および消耗品を購入後に余った残金を旅費として使用する予定であったが、年度末までに科研費による出張予定がなかったために生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
我々はこれまで、種々の高圧下における物理化学的測定を行ってきたが、高圧力を発生させるポンプが長年の経年使用のために劣化し、特に高圧力下における実験時に圧漏れが見られるようになっている。次年度においては設備備品として小型高圧ハンドポンプを助成金の大半を使用して購入する予定である。残金は、実験に必要となる消耗品、旅費および分担者分配金として使用予定である。
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Research Products
(26 results)