2015 Fiscal Year Research-status Report
60°ベント角の屈曲分子によるバナナ液晶形成と強誘電応答ディスプレイの開発
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26410086
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
姜 聲敏 東京工業大学, 理工学研究科工学系, 助教 (00523664)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 液晶相構造 / 相転移 / 強誘電性 / ネマチック相 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、平成26年~27年度の研究計画である”分子設計と構造・物性の基礎研究”の2年度目として1年度目に開発した新規液晶化合物の相構造・電気応答特性などの詳細を調べた。1,7-ナフタレンジオールコアを基本としサイドウィングに1個の塩素基を有する分子(1Cl-N(1,7)-O6)系において、新規のネマチック液晶性が見られ(N1相、N2相と命名)、その詳細を調査した結果、最近最も注目を集めているツイストーベンドネマチック(Ntb相)相と非常に類似していることが分かった。これまでのNtb相は、奇数系の二量体液晶やバナナ型液晶において報告あるが、本研究のような小さなベント角を有する分子では前例がない。N1相・N2相が現在注目のNtb相であるかについては今後さらなる調査を必要とするが、現在みられているN1相・N2相の特性だけでも学問的・応用的十分な面白みがあると思われる。新規ネマチック相の特徴が最もよく見られるのはX線回折像からである。N2相においては、分子ダイレクター垂直方向に分子長を超える大きさのテトラゴナール格子を自発的に形成しており、テトラゴナールカラム格子の形成は、ヘキサゴナールカラム格子の形成に比べ非常に珍しい発見である。ずなわち、本分子系に見られたN1-N2相転移は、カラムナーテトラゴナール秩序形成におけるdisorder-order相転移として考えられる。ヘキサゴナール格子に比べ空間充填の側面から不利と思われるテトラゴナール格子の自発的発現は非常に興味深い結果であり、今後はこれら相構造形成のメカニズム・駆動力の解明を進めていく必要がある。 このようにして、本来目的としていた強誘電・反強誘電相の発現に加え、新規のネマチック相の発見は、今後の展開・解明によって新しい液晶ディスプレイ材料・技術としても非常に興味深い結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年度目には、強誘電・反強誘電特性を示す新規化合物という目的から二つ以上の分子系を発見することができた(Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, 8216, J. Mater. Chem. C, 2015, 3, 2266)。これらの結果は、本研究本来の目標・目的以上の進展であり、新規液晶相転移系列と液晶相転移温度の低下という二つの目標を同時に達成することができた。 一方、塩素基を導入した新規分子設計からは、思わぬ新規ネマチック相のN1相・N2相を発見することができた。これら新規のネマチック相からは、通常のネマチック相においてよく知られている誘電応答特性が確認され、二軸性ネマチック相の電気応答という意味合いでは、新規ディスプレイ技術への応用へ大きな期待が持たれるため、こちらの新規ネマチック相の調査をも同時に進めてきた。 まず広角X線回折および小角X線散乱実験からN1相、N2相にはネマチック分子ダイレクターに垂直な方向に付加的秩序構造を有することが確認できた。X線回折パターンの解析からこの秩序構造は、分子の大きさより大きい約57Åの大きさを有し、テトラゴナール対称性を持つことが分かった。一方、両相における電気光学特性の調査からは誘電応答が確認でき、通常のネマチック相同様、外部電場により分子の配向制御、すなわち光スウィッチング機能を有することが確認できた。これら新規ネマチック相は、強誘電性とは異なるものの、新たな代替え材料としても応用へ大きな期待が持たれる。 総括すると、(1)アセチレン連結部の導入によるB2、B7強誘電・反強誘電液晶の誘導、(2)新規のスメクチック相―ヘキサゴナール相―B7相の相転移の観察、(3)新規ネマチック液晶の形成を確認することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
塩素系分子において発見された新規ネマチック相と、世界的大きな関心を集めているNtb相の関連性は明確でない。本研究によって見出されたN1相、N2相には、多くの関心が集められており、共同研究などを含めてN1相、N2相のモルフォロジーを多方面から調べていく。たとえば、フリーズフラクチャーTEM(FFTEM)やCryo-TEMなどの手法を用いてテトラゴナール秩序性の本質である高次構造を調査する。さらに原子間力顕微鏡などの手法を取り入れ、直接テトラゴナール周期性の観察に取り組む。いずれにしても、最も難しい条件としては、約170℃の温度領域に存在する新規ネマチック相を室温の環境下で測定をする温度条件である。 一方、ナフタレン環を中心コアにした分子系においては、これまで見られたヘキサゴナールカラムナー相、キュービック相とは異なる光学的等方相が見られた。光学的等方相は、今後の液晶ディスプレイ技術において新たな可能性として有望な液晶相であり、これらの系においてより詳細な配向X線調査を進めて、詳しい相構造を明らかにする。 また、これらの研究成果は国際ジャーナルや国際学会を中心とした専門的会合の場に向け、積極的に配信していく。
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Causes of Carryover |
興味深い液晶相、N1相、N2相の発見によって当初の研究計画を一部変更した。平成27年度目では、強誘電・反強誘電性バナナ液晶相の複雑な副次相構造を調べるために、放射光X線測定の実験計画を十分に想定していた。しかし、新規ネマチック液晶相の同定には、本研究機関内のX線で多くの測定ができたため、当初計画していた海外出張実験を大幅に取りやめた。 さらに新規化合物の合成では、多くの分子設計においての既存の試薬を用いた化合物合成ができたため、当初の計画より、試薬購入費等の経費の節約ができ、こられの計画変更により残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外出張実験のとりやめ、試薬購入費から発生した残額は、新たな電気光学特性を調べるための顕微分光システムの導入に充てる。ネマチック相の誘電応答特性が確認できたため、複屈折性・屈折率などより詳細な情報を調べる分光システムを導入する。またより小型・軽量化した過熱システムを入れることによって機関外での測定出張時に正確な温度制御システムを持ち込むことができる。平成28年度は残額を合わせた設備導入によってより効率高く正確な物性測定が期待できる。 また、平成26-27年度の研究年度目には、新規分子の合成・物性評価のため、十分な情報発信ができていなかったため、平成28年度には国際学会を含め、より積極的に情報発信(学会などの参加)を行う予定である。
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Research Products
(12 results)