2014 Fiscal Year Research-status Report
レイリー散乱分光分析による単層カーボンナノチューブ応用の高効率化
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26420135
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千足 昇平 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50434022)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / レイリー散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
単層カーボンナノチューブからのレイリー散乱スペクトル測定を目指し,光学系の設計,構築を行った.励起光源として連続波長レーザー(波長400から2000 nm)を用い,それを対物レンズで集光してサンプルに照射する.サンプルから生じた散乱光は別の対物レンズで集光し,分光器へと導く.分光器には可視光領域用のCCD検出器および近赤外領域用のInGaAs検出器の2つの検出器を接続し,広範囲の波長領域に渡るスペクトルの測定を可能とした. レイリー散乱は励起光と同じ波長であるため,その散乱光がどこから生じたかの判断が難しい.一方,光励起蛍光発光は励起光より長波長であるため,励起光との区別が容易である.そのため,光を照射するとレイリー散乱光の他に光励起蛍光発光も測定することができる液中分散カーボンナノチューブをサンプルとして用いた.結果,カーボンナノチューブ特有の光励起蛍光発光スペクトルを得ることができ,このことから構築した光学系において,レーザー光のサンプルへの照射,サンプルから生じた散乱光の集光および分光器での検出ができていることが確認できた.次に,同じサンプルからのレイリー散乱スペクトルの検出を試みた.レイリー散乱スペクトル計測においては,各波長における入射光強度とレイリー散乱光強度の比が重要になる.そのため,予め連続波長レーザーのスペクトルを測定し,その後サンプルからの散乱光を得て強度比を分析した.連続波長レーザーは非常に広い波長領域であるため,測定系に用いた光学素子の波長依存性が顕著に現れることから,それらの補正を慎重に行った.その結果,液中分散カーボンナノチューブから,カーボンナノチューブの離散的な光学遷移エネルギーに対応するピークをレイリー散乱スペクトルに得ることに成功した.ここで構築できた測定系は様々なカーボンナノチューブサンプルからの計測が可能であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
レイリー散乱スペクトル計測は,その波長領域が非常に大きいため使用する光学素子の選定が難しい.できるだけ波長依存性がない光学素子を用いたとしても,多数の光学素子を使用する必要があるためどうしても波長依存性が顕著に現れてしまい,補正を慎重に行う必要がある.ここでは,様々な仕様の光学素子の光学特性を調査し,実際に1つずつ計測,特性の吟味を進めていきながら光学系の構築を行っていった.その結果,比較的波長依存性の少ない光学系,光学素子を集めることに成功した.非常に大変な作業ではあったが,期待通りの仕様の光学系を予想以上に順調に構築に至った.最終的にはレイリー散乱スペクトルの検出にも成功し,高い達成度を得ることができた. また,単層カーボンナノチューブは合成したままでは多数のナノチューブが絡み合った状態であり,複雑な構造をしている.そのためその光学物性計測は容易ではない.単層カーボンナノチューブの計測系の構築作業において,安定した単層カーボンナノチューブサンプルの準備ができるかが重要なポイントになる.様々な,形態・構造の単層カーボンナノチューブを検討した結果,液中分散カーボンナノチューブを採用した.この液中分散ナノチューブの光学物性は非常に安定しており,結果レイリー散乱スペクトルだけでなく光励起蛍光発光スペクトルも検出できることを示すことができた.ここでの適切なサンプル選定によって,同じ測定系においてレイリー散乱スペクトルと,光励起蛍光発光スペクトルの同時計測も可能であることを示すことできた.今回構築することができた光学系は単層カーボンナノチューブの光学物性研究に非常に強力なツールになったと言える.このレイリー散乱および光励起蛍光発光スペクトル同時計測の実現は当初の研究の予定以上の結果である.このことからも,本年の研究の達成度は高いと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は液中分散単層カーボンナノチューブをサンプルとして用いた.これはレイリー散乱発光だけでなく光励起蛍光発光も計測できるサンプルであり,光学計測用のサンプルとして優れたものであった.今後は,より一般的な単層カーボンナノチューブからのレイリー散乱スペクトルの計測を目指し,様々な構造・形態のカーボンナノチューブサンプルの測定を試みる.例えば,スリットや凹凸構造などに単層カーボンナノチューブを空間的に架橋させた架橋ナノチューブサンプルを作製する.架橋構造にすることでカーボンナノチューブのみからの散乱光を得ることができるため,より高感度でのレイリー散乱計測が可能になる.また架橋カーボンナノチューブは他の物質とは接触していないため,ナノチューブが持つ本来の光学物性の計測できる.この架橋カーボンナノチューブから得られたレイリー散乱スペクトルを分析・検討によって,今後のレイリー散乱スペクトルの解釈やナノチューブ物性の更なる分析に非常に重要な知見が得られることが期待できる. また,別のサンプルとして,より単層カーボンナノチューブの太陽電池や透明導電膜として応用時の形態に近い,単層カーボンナノチューブ薄膜からもレイリー散乱スペクトルの計測を進める.基板との接触や他の物質との積層化した際,カーボンナノチューブ自身の物性がどのように変調を受けているのかに着目し,それらをレイリー散乱計測によって明らかにしていくことを目指していく. 現状において,当初の予定より順調に研究は遂行できており,特に研究計画等の変更は必要がないと考える.
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Causes of Carryover |
当初の予定より光学系の設計が順調に進行し,既にあった光学部品等での光学系構築が可能になったため,次年度使用額が生じた. 予定以上の進捗があり研究としては問題ない.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
更なる光学系の設計を進めていく.具体的には,これまでは励起レーザー光を対物レンズで集光することで,サンプルの一点からの計測を行っていた.今後は,サンプルにレーザーを広げて照射することで,2次元的な計測の実現を目指していく.このことによりサンプルからのレイリー散乱のイメージング計測系の構築を,当初の予定より少し早めて進めることを計画している.
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Research Products
(10 results)