2015 Fiscal Year Research-status Report
希土類添加材料の発光強度10倍増へのアプローチ:マイクロ波吸収による消光要因探求
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26420287
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
石井 真史 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端的共通技術部門 表界面構造・物性ユニット 表面物理グループ, 主幹研究員 (90281667)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マイクロ波 / 応答解析 / 雑音解析 / ガラス / 半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は「フェーズ2:分析法確立」として、(1)希土類が周辺とエネルギー授受を行うナノ領域をナノクラスタとして捉え、そのエネルギー授受を定量化すること、(2)ベクトル解析を用いて、エネルギーの消費・散逸を弁別して調べること、(3)それにより、発光の律速過程を探査すること、を中心に予定以上のペースで課題を遂行した。 主な成果として、先端機能性ガラス(ネオジウム添加ビスマス酸塩ガラス)のマイクロ波吸収測定を行い、そのベクトル解析法を確立した。また昨年に引き続き、新奇GaN:Eu赤色LEDのEu発光中心の高周波分析を進展させた。以下は、それぞれの成果の概要である ビスマス酸塩ガラスは赤外発光材料の母体として注目されている。ここに様々な希土類を共添加することで、超ワイドバンドの赤外発光材料が実現できる。本研究では、この先端材料を新奇マイクロ波吸収で評価し、温度消光と同様の振る舞いを示す電荷応答を発見した。さらに、この応答を詳細に分析し、注入エネルギーの発光中心局所の熱損失と散逸を個別的かつ定量的に算出できることを示した。こうした局所のエネルギーフローの定量観測は、これまでに全く例がなかった。さらにそれらの挙動は、希土類(Nd)の添加・非添加によって劇的に変化し、希土類添加がエネルギーフローを変えるスイッチの役を果たすことが明らかにした。この成果は、学会発表し、論文として刊行した。 GaN:Eu LEDの作製は、GaNベースで三原色を実現するための挑戦的な試みである。本課題ではサブGHzの高周波を用いることによって、希土類(Eu)近傍の局所ポテンシャルのサイズを特定することに成功した。この局所ポテンシャルが大きいほど、効率的に注入電荷を捕獲できる事から、希土類の発光強度増大の鍵であることを示した。この成果は、学会発表し、論文として刊行した。また国際会議の招待講演にもなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述の研究実績の概要からもわかるように、当初の計画を上回るペースで研究成果を得ている。これは、ハードルの低い目標設定を意味するものではなく、独創的なアプローチを重ねてきた結果である。昨年の「フェーズ1:技術確立」で、緻密な設計で測定系が早期に実現できたことは、その第一歩であった。更に本年の「フェーズ2:分析法確立」において、ベクトル解析を従来の枠組みにとらわれずに進展させ、局所的なエネルギー損失、散逸を定量的に見積もる手法に昇華させたことは、その第二歩目であった。こうした段階的な発展プロセスを経て得られた実材料の局所的なエネルギー損失、散逸(すなわちエネルギーフロー)は、開発現場で問題になっている消光要因に直結したパラメータであることに特に注意する必要がある。すなわち、本成果は一材料のみに対するものではなく、発光材料全般に対するものである。これまで一般的に、光測定から推測していた消光要因に、明確な物理パラメータを対応させ、その定量分析を実現した点に学術的に重要な意味がある。 計画を上回るペースであることの証拠は、実際に先端材料・デバイスに適用し、多くの成果を得ていることから、論を俟たない。そもそも本研究課題の出口は、特例的な一測定法の確立にとどまらない“使える”測定法の確立とその応用であり、二年目の段階で、そこに十分コミットしている。 発表論文も多く、招待講演も受けている。到達度は極めて高いといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り最終年度では、「フェーズ3:応用」として、いくつかの他機関から提供いただいた先端的な発光材料について分析をより進めて、発光強度増大に必要な情報を発信してゆく。 応用に専心するフェーズに入ったことで、上記の実績で述べた二材料にとどまらず、共同研究の幅を広げて、他の希土類添加材料を分析することを計画している。新しく手掛ける材料は、ここしばらくの間に画期的な展開が必要、あるいは展開が期待されている、蛍光体を想定している。蛍光体は白色LEDや蛍光灯などに使われ、いまや生活に密着した発光材料であり、産業的に極めて重要である。今回は特に、産業界で期待が高い400nm近傍の長波長の紫外線(近紫外光)での励起が可能な蛍光体を研究対象の中心に据える予定である。これまで技術的なノウハウが蓄積されている長波長の光源を使うことができれば、産業へのインパクトは大きい。 従来から、蛍光体は経験的な勘に基づいて開発・改善されている。そのアプローチは明らかに効率的とは言い難く、限界を迎えている。ここに新しい分析法を導入することで、科学的な観点で、長波長の光で励起可能な優れた蛍光材料の開発指針を示すことができる。フェーズ2までに積み上げてきた手法に加え、現在検討中の新しいアイディアを導入し、この挑戦的な取り組みを更に進める。この取り組みは、新しいアイディアの検証でもあり、更に次のステップへの足掛かりでもある。現在既に、二・三の産学官機関に対して共同研究を打診しており、間をおかずに新たなフェーズを展開できる見込みである。 こうした新たな試みと共に、本課題の成果をまとめた報告書(冊子)作成を予定している。また、学会発表や論文発表を通して成果の社会への還元を進める。
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Causes of Carryover |
本年度、システムが予想以上にうまく動作し、次年度計画を前倒しして進められるまでに至った。そのため、主に物品費の購入が抑えることができた。一方で、応用の展開に伴い、測定精度の向上の必要性などが表れつつあり、その見極めをはかる為ある程度の運用期間を必要とした。十分検討結果を加味し次年度使用額としてまとめることが、本補助金を有効活用できると判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
測定精度の向上、幅広い材料応用への展開を図る。そのために、装置の改造や追加のアタッチメントの作製など、追加の措置を行い、研究の最終フェーズを全うする。
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