2016 Fiscal Year Research-status Report
洪水常襲地帯における水防建築の空間的設えと生活様式のあり方に関する研究
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26420620
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
畔柳 昭雄 日本大学, 理工学部, 教授 (90147687)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪井 塑太郎 日本大学, 理工学部, 准教授 (80449321) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 風水思想 / 集落空間 / 洪水氾濫 / 水系システム / 牛腸水 / 庭院魚塘(養魚池) / 踏板石 / 世界文化遺産 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年10月に従前調査を行ってきた成果「水害ジュ州地域における建築的減災対策に見る地域特性に関する研究‐利根川・荒川・大井川及び信濃川・揖斐川・淀川を対象として-」を日本建築学会計画系論文集に投稿し2016年9月発行のNO727に登載された。次いで、2016年4月に同じく「洪水常襲地域における水防災事業と洪水が住環境に与える影響に関する研究‐三重県紀宝町を対象として-」を日本建築学会計画系論文集に投稿し、2016年12月の発行のNO730に登載された。また、中国安徽省黄山市宏村における調査を2016年10月に実施した結果、①南宋徳祐二年の洪水氾濫により旧河川跡地に現在の集落が生み出された。②宏村集落の水系システムは、集落内に牛腸水と呼ばれる水路が水を供給し、集落中心部の月沼と集落南側の南湖及び民家の庭院魚塘(養魚池)に給水している。③集落内の水路は2系統あり幅の広い水路と狭い水路があり、水路は開渠であるが、民家の床下通過や暗渠化された場所もある。幅の狭い水路は主に集落の東側に敷設されており現在は水量も少なく溝化している。④水路は防火用水、気候調整と環境美化、飲料水、洗濯用水、灌漑用水の確保のためにつくられた。⑤利水空間には“踏板石”があり、日常利用や水面のゴミ除去の工夫がある。⑥「庭院魚塘」は、地面よりも低い位置に水面があり、集落西北部の街区と集落中心部の月沼周辺街区に比較的多く集積する。⑦600年程前の水路利用規則が水道普及まで継承されていた。⑧水の管理は1986年頃から啓発活動が行われ、2000年の世界文化遺産登録後には清掃員が配されるようになった。宏村の水系システムは、本来のあり方とは乖離した状況を見せてきている。こうした状況は、今後の集落環境のあり方に対して疑義を起こす要因になるものと思われる。尚、この調査結果は日本建築学会計画系論文集への投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
洪水常襲地帯では、伝統的技術の構築により災害に対応することで被災文化を築いてきた。こうした取組みは国内外ほぼ共通している。しかし、こうした地域も都市化や治水整備の進展により水防建築などは消滅的状況にあり、今後はモノとしての「水防建築」、コトとしての「生活習慣・意識」を如何に継承するかが課題である。そのため、かかる現状を鑑みることで、①水環境の変動に対応した地域的・建築的空間特性の把握、②生活様式や地域社会における水環境との関係性の把握、③消えゆく地域的・建築的空間の継承方策の検討が必要と考えた。そこで、2015年から国内・国外の主に洪水常襲地帯と呼ばれてきた地域を対象に現地調査を行うことで、建築空間的な減災対策や地域的な取り組み及び生活の中での暮らし方としての減災対策や復旧などの手立てを見出してきた。しかしながら、当初予定していた地域が都市化の流れが予想よりも早く進んでいたり、治水整備の進展による影響を受けることで、建築的工夫としての「水屋・水塚」など水防建築の役割が不要になり、次第に地域から転用・改築・解体撤去されてきており、その姿を捉えることが困難な地域が多いことが分かった。また、国外においては、当初ベトナムハノイやメコンデルタと中国黄河流域の山東省荷沢市を比較対象地とする予定であったが、現地の都市化の進展や現地状況の変化などにより別途場所を検討したが、それらの場所が自然災害や伝染病汚染地域の指定を受けることで踏査が不可能となった。そのため、現場の変更のための情報収集等で時間を要し当初の予定通り研究を進めることができず、若干進捗状況が予定よりも遅れることとなった。しかしながら、日本建築学会計画系論文集に対して2編の論文報告(査読付き)を成果としてまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、当初より季節的な気象条件による環境変動が著しい場合は、補足調査2016年調査Ⅲ」を予定していた。そのため、2015年の調査Ⅱの結果に基づき、4項目を実施することとしていた。①水環境の変動条件に対応した建築空間が備える動的(操作)特性の検討。②生活としての水環境との関係性の形成過程の把握。③消えゆく地域的・建築的空間の継承の検討。④水辺利用の促進を図る新たな建築的空間のあり方の提示。加えて、水防建築など減災対策の建築遺産としての記録の保存を図る。この①から④を予定してきたが、④以外は概ね遂行することができたものと考える。そこで、本年度は④を中心に国内外の調査適地を抽出し、調査を展開し、これまで行ってきた研究の成果に対する考察を行い総まとめを行うこととする。
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Causes of Carryover |
現地調査の実施を予定していた当初の地域地区における調査が実施不可(国外:汚染地域、国内:対象物の解体)となり、新たな調査候補地を研究協力者と検討した後、現地調査を実施したが、当初予定の場所からの変更により、現地への移動交通手段の制約などの影響を受け、調査日程の確定が難しく現地で活動を短縮せざるを得なかった。そのため、旅費・人件費において宿泊費と翻訳費に余剰が生まれることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現地調査の日程が予定よりも短縮せざるを得なかったため、本年改めて現地に入り、当初予定の調査事項に基づき、前回果たせなかった部分の調査を補完したいと考える。そのため、本年実施の調査現場について研究協力者らと日程を検討の結果、2017年の下半期(9月~10月)に調査を実施することとした。その日程にしたがい調査を実施することで旅費・人件費等を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)