2016 Fiscal Year Research-status Report
日本固有種と欧州種が並在する独創的な野生由来アカネズミ属バイオリソースの質的評価
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26430092
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| Research Institution | University of Miyazaki |
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Principal Investigator |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 教授 (70295210)
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| Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
枝重 圭祐 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (30175228)
坂本 信介 宮崎大学, 農学部, 講師 (80611368)
本多 新 宮崎大学, テニュアトラック推進機構, 准教授 (10373367)
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| Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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| Keywords | リサーチバイオリソース / 齧歯類 / アカネズミ属 / 遺伝的多様性 / 新規モデル動物 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
遺伝的に統御を受けたマウスやラットで確立された遺伝子改変動物の作出やES・iPS細胞樹立技術は、先鋭的な生命科学研究ツールとして普及している。しかしこれらの技術は哺乳動物一般で再現できない場合があり、マウスやラットで獲得した知識は、多様な生命現象を限局的見ているにすぎない。生命現象を普遍的に評価するには既存の研究素材を補う新たなリソースを整備する意義あると考えた我々は、日本在来の固有種を含むアカネズミ（Apodemus）属に焦点を当て生物多様性に富んだ日本独自の科学基盤の確立を目指してきた。その結果、不可能とされてきた人工繁殖によるコロニー樹立を達成し、表現型解析を開始した（文科省科研費#23650236）。本計画では「多様性」の視点から先行研究を発展させ、Aodemusリソースの特性を俯瞰的に捉えた研究を行い、もって野生齧歯類のリソースを実験医学領域のみならず、進化、保全、環境生物学など哺乳類科学の研究基盤素材として発展させる事を目的として、①飼育下での繁殖効率に影響する要因の探索 ②実験動物学的基礎情報の獲得と集積 ③モデル動物としての病態特性解析 ④胚操作補助技術の開発の4本の柱に沿って研究を進めている。
本年の実績として、①Apodemus2種で発情期を示す膣インピーダンスの閾値を決定し、発情の迅速判定を可能とした。また飼育ストレスを尿中コルチコステロンを指標として定量化し、飼育環境の改善に着手した。②実験動物としての基礎特性情報の集積を継続した。③新経筋疾患の新規モデル動物としての病態情報の取集を進め、病理学的エビデンスを集積した。④抗インヒビン抗体を用いた新たな排卵誘起法と胚移植による産仔獲得を目指して性周期の同期化を試みた。さらに近縁種の日本固有齧歯類のiPS細胞樹立を試みた。
これら成果の一部を成書「日本のネズミ」の単元にまとめ、東京大学出版から上梓した。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究資源としてアカネズミ属の価値を高めるため、設定した4本の柱ごとに研究を進めた。①飼育下での繁殖効率に影響する要因探索：マウス、A.sylvaticusおよびA.speciosusの繁殖評価指標として、それぞれ膣インピーダンス値 3.4、5.2、1.9kΩを閾値とした発情休止期の選別法をまとめた。また、A.speciosusメスの飼育ストレスをコルチコステロンを指標に評価し、ケージサイズがストレスに影響する可能性を見出したため、詳細に検討することとした。②昨年度集積したA. sylvaticusの主要臓器重量、増体曲線、産仔性比、産仔数、自発活動量等に加えて、行動学的基礎特性（FOB）指標のうち、間体性・硬直性不随意運動、泣鳴、眼瞼閉鎖、流涙、歩調（6評価）、覚醒度、行動様式（5評価）、異常行動、排便・排尿回数、ワイヤハング試験について、離乳期から成長期のデータを集積した。③FOB指標及び病理学的解析からA. sylvaticusに見出された神経筋疾患様個体の解析を進め、変異個体には明確な運動障害が乳仔期から発現する上、ヒトの神経・筋疾患でみられる呼吸器系障害や顔面筋発達遅延、更には立毛や不正咬合が確認され、筋及び脊髄組織で神経・筋疾患に特徴的な病理学的所見が見られることがわかった。しかし変性神経細胞に炎症細胞が確認されず運動障害の明確な原因究明には至らなかったため、解析を継続することとした。④胚操作補助技術の開発：胚移植による産仔獲得を目指して、プロジェステロン投与による性周期の同期化試験を実施したが、マウスで報告されているような有効な同期化条件の設定には至らなかった。これら以外に、近縁種で絶滅危惧固有種であるトゲネズミのiPS細胞樹立を試み、ナイーブ型様iPS細胞の樹立に至った。またトリトンハムスターの消化管内微生物特性についての解析をまとめた。
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| Strategy for Future Research Activity |
アカネズミ属とその近縁の日本固有種げっ歯類の研究資源としての可能性を探索するために、価値最終年度も4本の柱ごとに目標を設定して研究を継続する。①膣インピーダンス法と尿中コルチコステロン測定法を指標として、A.speciosus飼育条件の適正化に向けた試験を継続する。特にコルチコステロン法の評価基準を詳細に設定し、マウス以外の齧歯類のストレス指標として簡便に活用できる評価系を確立する。さらに野生個体群が繁殖期に入る10月以降には野生個体を再導入し、長期飼育群との比較試験を実施することで飼育条件の改善に努める。②実験動物学的基礎情報の獲得と集積：A.sylvaticusの基礎特性情報をマウスFOBにならって体系化する。さらにA.speciosusについては産仔数が少なく体系だったデータ集積は困難であることが予測されるが、段階的な情報集積を継続する。③モデル動物としての病態特性解析： A.sylvaticusの神経筋疾患モデル化に高い可能性が見出されたため、集中的に解析を進める。径齢的な病理標本に解析と、既存のモデルマウスを含めた比較病理、行動学的解析を行う。また、社会性齧歯類として着目されるデグー（Octodon degus）に癲癇様発作を頻発する系が見られるため、神経疾患の新規モデルとしての可能性を探る予備研究に着手する。④胚操作補助技術の開発： 研究の進展が最も遅れている分野であり、排卵誘起と性周期の同期化条件についての研究を、マウスをモデルとして継続する。さらに樹立したアマミトゲネズミ（Tokudaia osimensis)のiPS細胞について解析を進め、分化能を検討し研究資源としての活用性を検討する。そのためマウスとのキメラ作出と、生殖巣と生殖細胞を含む各組織への分化能について詳細に検討する。
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| Causes of Carryover |
当初予定した予算を全額執行せずに報告通りの成果を得た。執行した予算は分担金、細胞保存用の液体窒素代、行動観察用カメラ購入費、論文の英文校閲費で、他は連携研究体制を活用して経費削減につなげた。動物飼育経費はコロニーが縮小したため大学経費で拠出した。インピーダンス測定には既存の装置を用い、コルチコステロン測定は企業との共同研究（測定キット開発）として依頼した。基礎特性データの蓄積はビデオの購入以外に機器や試薬が不要な項目を優先した。病理解析は獣医学科との共同研究として標本作成を依頼した。人工繁殖用のホルモン等は既有の試薬を流用した。iPS細胞樹立を学内共同研究として開始したが、予備試験としたため試薬等を必要としなかった。これら経費節減は、次年度に大きく進展させる病態特性評価及びiPS細胞研究を中心に予算が必要となることが年度途中から予測されたため、年度を越えて計画的執行に務めた結果である。
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| Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は神経筋疾患の病態特性解析には、既存のモデルラットを導入し比較研究することとしており、動物購入のための予算も必要となる。さらにデグーの転換用神経疾患の解析を本格化させること、トゲネズミiPS細胞の評価研究を継続することも予定しており、予算の集中執行を計画している。さらに秋期以降に野生個体を再導入してコロニーの再拡張を図るため、飼育機材、試料等の経費が増えることを予定している。またコルチコステロン測定にELISAキットを購入する必要があり、相応の試薬代が必要となる。基礎特性情報に関しても酸素消費や自発活動量変化の測定を予定しており、校正ガスや小額備品（センサー、ビデオカメラ）などの購入を予定している。これらに必要な経費として、前年度執行を抑えた計画的な予算確保を進めたので、順次計画に従って執行する予定である。
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