2015 Fiscal Year Research-status Report
国内外来種の見えない脅威の可視化とリスク管理―ペット昆虫問題の拡大防止に向けて
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26430205
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
荒谷 邦雄 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (10263138)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細谷 忠嗣 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90467944)
楠見 淳子 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (20510522)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ペット昆虫 / ペット甲虫 / 外来種 / 国内外来種 / 進化的重要単位 / 遺伝子浸透 / 多様性保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、現地調査と解析サンプル採取を、国内では総合対策外来種に指定されたリュウキュウツヤハナムグリと沖縄のカブトムシ本土亜種を主な対象に奄美群島と沖縄島で、国外ではペット甲虫として日本での人気が高いオオクワガタやヒラタクワガタ、マルバネクワガタ類の近縁タクサを主たる対象に台湾とラオスで実施した。 解析に関しては、人為的影響による野外個体群の減少に加え、逸出した外国産近縁タクサや国内他地域産の個体との交雑による遺伝子撹乱も懸念されているオオクワガタ(Dorcus hopei binodulosus)に関して、保全のための進化的重要単位(ESU)の検出とともに、近縁タクサや外国産、国内他地域個体群の逸出・放虫個体やそれらとの交雑個体を判別するために、近縁タクサ間やタクサ内の遺伝的分化を識別できるマイクロサテライトマーカーの開発と、幾何学的形態測定学的手法を用いた形態形質指標の確立を試みた。SSRマーカーを新規に7座位開発し、日本集団を含む2種全5亜種を解析した結果、従来のミトコンドリアCOI遺伝子解析等では不明瞭だったタクサ間の識別に加え、同亜種とみなされている日本と北朝鮮・中国北部の集団は区別可能で、日本集団がESUとして位置づけられる可能性が示唆された。一方、形態解析の結果、いくつかの形質においてタクサ間の判別が可能であることも示しされた。 以上の結果をもとに、標本ラベルに疑問のある外国産個体、近縁タクサとの交雑が疑われる飼育個体、および外国産または外国産との交雑の可能性がある野外採集個体について、遺伝・形態の両データを用いて判別を試みた結果、多くの個体で妥当な判別を行うことができることも判明した。 マルバネ、ノコギリ、ヒラタ、ミヤマのクワガタムシ類やカブトムシに関しては、ミトコンドリアDNA解析の結果、離島産の個体群間の識別が可能であることも明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロサテライトDNA解析によって従来不明瞭だったオオクワガタの各タクサ間の識別に加え、同亜種とみなされている日本と北朝鮮・中国北部の集団は区別可能で、日本集団がESUとして位置づけられる可能性が示唆されたことは大きな成果である。 また、オオクワガタの標本ラベルに疑問のある外国産個体、近縁タクサとの交雑が疑われる飼育個体、および外国産または外国産との交雑の可能性がある野外採集個体について、遺伝・形態の両データを用いて判別を試みた結果、多くの個体で妥当な判別を行うことができることも判明した点は評価できる。 これらの研究成果の一部は、「ペット甲虫類における外来種問題 ~意図的導入の罪過とその贖罪~」と題して、日本昆虫学会第76回大会・第60回日本応用動物昆虫学会大会合同大会に公開シンポジウム「昆虫類をめぐる外来生物問題と対策」において招待講演を実施するなど、多数の論文や学会講演を通じて公表した。 加えて、成果の社会への還元、情報発信として、学生、市民向けに第11回地球社会統合科学セミナーとして「外来種や危険生物とどう向き合うか? ~伊都キャンパスに潜む外来種や危険生物~」を開催した。沖縄島(国頭村)や与那国島でも地元市民を対象とした外来種問題に関する講演会も実施した。沖縄県竹富町の自然保護条例審議会委員として、研究成果の一部に基づき、条例の制定にあたって国内外来種への対応として、同町内の島間の個体の移動を制限する条文を盛り込むよう提言した。 しかし、一方で、オオクワガタの日本国内の地域集団を区別しうるマーカーの開発には至っていない。マルバネクワガタやノコギリクワガタ、カブトムシなどオオクワガタ以外のペット甲虫も本土や大きな離島産の個体群に関するマイクロサテライトDNA解析を用いた集団の識別が必要である。水生昆虫の解析も進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
オオクワガタに関しては、日本国内の地域集団を区別しうるマーカーの開発を進める。マルバネクワガタやノコギリクワガタ、カブトムシなどオオクワガタ以外のペット甲虫も本土や大きな離島産の個体群に関するマイクロサテライトDNA解析を用いた集団解析を進める。水生昆虫のサンプリングと解析も継続して実施する。 最終年度として、これまでの実験・調査の結果を総括し、形態と遺伝子解析の結果に基づいて日本におけるペット昆虫類の国内移入種の実態を明らかにするととともに、分類群ごとに移入個体や交雑個体を簡便に判別する方法をまとめる。また、生態リスクを反映した優先順位に基づいて「侵略的国内外来種リスト」をまとめ、国内外来種問題に関する社会の意識を高める。研究者や関係省庁、自治体関係者はもちろん、ペット業者や愛好家をも交えたシンポジウムを開催し、社会全体への成果の還元を図る。形態と遺伝子に基づく在来希少種のESUの検出とそれらを基本とする保護管理ユニットを設定した上で各ユニット間での個体の移動を制限する法の整備を含めた在来種の生物多様性保全のための体制作りを提言する。
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Causes of Carryover |
マイクロサテライトDNA解析のためのマーカーの開発を前年度から継続して実施したため、物品費(試薬代)が予想より節約できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ペット昆虫の遺伝子解析のために使用する。
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Research Products
(24 results)