2015 Fiscal Year Research-status Report
還元的モノづくりを指向する酢酸菌の遺伝子工学:細胞内ニコチンアミド系補酵素の制御
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26450095
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藥師 寿治 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30324388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 一信 山口大学, 農学部, 教授 (50107736)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 酢酸菌 / 発酵 / 応用微生物 / 酵素 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
酢酸菌はソルビトールからのソルボース発酵などのように,そのユニークな酸化的物質変換能が利用され,また研究も行われてきた。しかし,酢酸菌は細胞内物質代謝もユニークなところがあるが,その点はほとんど顧みられることがなかった。本研究では,酢酸菌の細胞内代謝に着目し,逆転の発想ともいえる「酢酸菌による還元的物質生産」を行おうとするものである。 Gluconobacter属酢酸菌は,TCAサイクルと解糖系(EMP)が不完全で,糖代謝のほとんどをペントースリン酸経路に依存する。不完全なTCAサイクルのため,アセチルCoAへの代謝量が著しく,最終代謝産物は二酸化炭素と酢酸となる。また,細胞膜のNADH酸化系呼吸鎖の活性は強いが,NADPH酸化活性は検出できないほど低い。このことは,細胞内のNADPHレベルが高いことを期待させるが,実際には,NAD(H)の方がNADP(H)よりも多く,両者とも酸化型としての存在比が高い。 平成27年度は,NADHの還元当量をNADP+へ可逆的に転移する,膜結合型トランスヒドロゲナーゼ(THase)の解析を行った。THase遺伝子の過剰発現の影響を,G. oxydans 621H株で調べた。加えて,G. oxydans NBRC3293株の野生株とgdhM遺伝子破壊株におけるNADH酸化活性とNADPH酸化活性を,グルコース培養とグリセロール培養とで比較した。これまでの測定結果同様,NADPH酸化活性はNADHのそれの約50分の1程度しかなかったが,グルコース培養下でgdhM遺伝子破壊株のNADPH酸化活性が野生株のそれの約2倍に増加していた。さらに平成27年度は,還元的物質生産の試みとして,キナ酸からのシキミ酸生産試験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに研究を行い,ある程度の成果を得ることができたと考えているが,新しい課題が露見したり,想定以上に研究の遂行が難しい部分が見えてきた。 NADHの還元当量をNADP+へ可逆的に転移するTHaseについては,過剰発現が引き起こす影響として解析した。まず,いくつかのプロモーターを用いて過剰発現を試みたが,最もプロモーター強度が低いものでも影響が見られた。過剰発現下では,マンニトールを炭素源とすると,低通気で生育できる一方,高通気で強い生育抑制が見られた。他方,グリセロールを炭素源とすると,低通気で強い生育抑制,高通気で生育可能であった。炭素源による生育挙動の違いは,二酸化炭素と酢酸までの代謝によって生じる還元当量(NADHとNADPH)の違いに由来すると考えられる。グリセロールよりもマンニトールの方がより多くの還元力を産み出すことから,(酸素を用いた)NADHとNADPHの酸化能力がTHaseによって影響を受けたと考えられる。 シキミ酸生産については,定性的に生産が確認できた。しかし,後述するように,この実験には課題が残されているので,その課題を克服することを目標に進めていく。 THaseについては,昨年度に,野生株を用いて活性測定を試みた。野生株といえども,そのmRNAが増大する条件下で細胞を調製した。しかしながら,酵素活性は検出できなかった。よって,過剰発現株を用いて活性測定を試みる必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,シキミ酸生産試験を中心に行う。これには,デヒドロキナ酸脱水酵素,シキミ酸脱水素酵素,NADP+依存グルコース脱水素酵素を含むプラスミドを用いて,G. oxydans NBRC3293株を形質転換した組み換え株を用いる。昨年度もこの試みを行ったが,宿主となるNBRC3293株において,過剰発現のためのプラスミド維持が困難で,コピー数の減少やプラスミドサイズの変化が生じていた。これを解消するために,本年度は強度の異なるプロモーターを用いてシキミ酸生産用プラスミドの構築を試みる。 上記課題を克服することができれば,酸素供給が一つの重要なポイントになると思われるので,培養工学的な検討も含めてシキミ酸生産実験を行う。特に休止菌体を触媒的に使う実験においては,「酢酸菌は高レベルの酸素が必須」といった従来のイメージに囚われずに解析を進めていく。 THaseの過剰発現株を用いて,THase活性の測定を行う。可能であれば,野生株での活性測定も試みる。また,細胞内のNAD(P)+とNAD(P)Hレベルの測定を行い,gdhM遺伝子破壊株に生じる変化,培養基質による変化,通気量による変化などを解析する。 以上のように,平成28年度は,物質生産試験に向けた研究を中心に行う。一方で,酵素活性や補酵素の酸化還元レベルを測定し,より生化学的視点から本菌による還元的モノづくりを理解することを目指す。
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