2015 Fiscal Year Research-status Report
食品としての脂質の高度利用とその品質劣化機構の解明
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26450184
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
渡邉 義之 近畿大学, 工学部, 教授 (20368369)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | O/W型エマルション / 凍結 / 乳化安定性 / 融解 / リモネン / 噴霧乾燥 / 粉末化脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
エマルションの低温安定性に関する研究について検討項目を見直し,凍結および解凍・保存温度の影響,初期油滴粒子径の影響,油相成分の融点および結晶形の影響について検討した.また,噴霧乾燥により調製された粉末化脂質を同じく凍結・解凍した場合の包括相内の油滴粒子の安定性について検討した. 油相にリモネンと,モル比で9倍量となるドデカン,テトラデカンまたはヘキサデカンを用い,膜乳化法によりO/W型エマルションが調製された.これを-20℃または-80℃で24時間冷却して凍結させた後,9℃で保存し,油滴粒子径分布とリモネン残存量および蒸散量が経時的に測定された.また,ノズル方式スプレードライヤーを用いて,マルトデキストリン水溶液を水相,上記アルカンおよびリモネンを油相としたエマルションを噴霧乾燥することで粉末化脂質を調製した.得られた粉末化物を-20℃で凍結させた後9℃で解凍・保存した. -20℃で凍結させた場合,ドデカンを含むエマルションは安定であり,テトラデカンおよびヘキサデカンを含むエマルションの油滴粒子径は保存時間とともに増大した.一方で,凍結温度が-80℃の場合,ドデカンを含むエマルションの乳化安定性が最も低く,ヘキサデカンで安定となった.したがって,凍結・解凍温度と分散相・分散媒の融点・凝固点との関係が凍結・解凍による不安定化の大きな要因であることが示された.エマルション中のリモネン残存量とリモネンの気相への蒸散量は,必ずしも乳化安定性と相関する結果とはならなかった.また,初期油滴粒子径が小さくなると乳化安定性が向上する傾向が示された.さらに,分子量の同じ分岐アルカンを用いた場合には安定化が観察された.粉末化により凍結・解凍後の油滴粒子の安定性は大きく改善された.エマルション状態での保存時と同じ傾向が粉末化物のアルカン間においても確認され,ドデカンの場合が最も安定性が高かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度分の遅れに加え,予期せぬ測定装置(ガスクロマトグラフィー)の故障により予定していた項目について実験・検討することができなかったことが主たる理由と考える.また,当初考案していた実験計画では十分な検討に届かないことが示されたため,今後より詳細な実験と他のアプローチの検討が必要であることがわかった.しかし,導入されたスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥による脂質粉末化物の調製と,それに含まれる油滴粒子の安定性についても試験を進めることができ,実験結果から分散系と粉体系でのそれぞれの粒子の安定性の間に関係性を見出すことのできる可能性が示されたため,今後の進行に成果を期待できると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
エマルション(分散系)や脂質粉末化物(粉体系)における各成分の融点などの物性情報を熱分析により得る.そして,粉末化物の凍結・解凍後の油滴粒子の安定性について,より多くのデータを追加・蓄積し,分散系との相違や関係性について検討する.さらに,不飽和脂質を用いた分散系と粉体系における乳化安定性と酸化安定性を速度論的に解析し,これまでの粒子の安定性の結果を踏まえて考察することにより,両系の安定化に寄与するキー・ファクターの解明を目指す.そして,安定性に関するシミュレーションから,不安定化機構の解析を試みる.
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