2015 Fiscal Year Research-status Report
マウスES細胞の酸化ストレス応答におけるABCトランスポーター・Bcrp1の役割
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26450460
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
三谷 匡 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (10322265)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ABCトランスポーター / ES細胞 / 酸化ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、幹細胞機能との関連が高いことが予想されるABCトランスポーター・Bcrp1に着目し、その作用として酸化ストレス応答による品質管理について、マウスES細胞のH2O2曝露をモデルに検証を行うことを目的とする。本年度は以下の研究を行った。 1.野生型ES細胞におけるH2O2曝露後のBcrp1およびc-Mycの発現動態 前年度において、マウスES細胞をH2O2曝露後2~6時間でウェスタンブロット解析、定量的RT-PCR解析を行ったところ、H2O2曝露後2時間においてすでに標的とするタンパク質や遺伝子発現に大きな変動がみられたことから、平成27年度はH2O2処理時間を短縮し、H2O2曝露後の初期の応答について検証した。H2O2曝露後のマウスES細胞における定量的PCR解析の結果、H2O2未処理 2ME(-)のものと比較して、H2O2処理区では、Bcrp1 (total mRNA)の発現量が増加する傾向がみられた。そこで、H2O2曝露1時間後におけるBcrp1 Isoform A/B/Cの定量的PCRによる発現解析を行った結果、すべてのIsoform A/B/Cで発現上昇がみられた。また、c-Mycについては発現量に顕著な差はみられなかった。ウェスタンブロット解析の結果、Bcrp1タンパク質は15分、30分後において未処理区に比べて約2倍増加傾向を示した。c-Mycタンパク質もBcrp1タンパク質と同様に15分、30分後において約2倍以上の増加を示した。リン酸化c-Mycタンパク質も15分後には約2倍、30分後には約4倍の発現量の増加がみられた。 これらの結果から、マウスES細胞におけるH2O2に対するBcrp1の応答について、H2O2曝露後1時間以内にc-Mycの転写誘導による転写亢進がなされ、c-Mycのリン酸化とBcrp1の生成が誘導されていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、本研究課題の中間年度であるが、初年度において、幹細胞モデルとするES細胞ですらBcrp1高発現のSP細胞と低発現の非SP細胞の亜集団に分けられ、それぞれにおけるBcrp1の発現制御様式については知見に乏しかったことから、本研究の背景となる基礎データの取得から行ったため、研究計画より進捗はやや遅れている。しかし、SP細胞でのBcrp1アイソフォームとc-Mycの位置づけを確認できた意義は大きく、本研究課題におけるBcrp1、特にアイソフォームAの発現と機能の視点の重要性が示された。初年度でも並行して、ES細胞へのH2O2曝露実験に対する条件設定を進めてきた。本年度は、それらの基礎データに基づき、H2O2曝露後の初期の挙動に着目して解析を行い、標的となるBcrp1、c-Myc、リン酸化c-Mycそれぞれについて変動を確認したものの、ES細胞内での酸化ストレス応答の生理的挙動(細胞内PPIXの局在、GSHレベル、ROS濃度、DNA損傷、ミトコンドリア膜電位活性等)の解析には至らなかった。しかし、それらの解析手法については並行して条件設定を進めており、次年度に実施予定である。また、本研究で作製予定のTet-on誘導型Bcrp1発現ならびにノックダウンES細胞については、上記の検証を優先して実施したために準備が遅れているが、ES細胞へのTet-on調節ベクターの導入に着手している。さらに、ES細胞におけるROS制御が分化誘導に及ぼす影響については、体外分化誘導過程における未分化関連遺伝子(Oct3/4, Nanog, Sox2など)や3胚葉への分化マーカー遺伝子(Brachury, Gata-4,Sox-1など)の発現の変動をRT-PCRおよびqRT-PCRにより解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果より、H2O2に対するBcrp1の応答について、1時間以内にc-Mycの転写誘導とc-Mycのリン酸化によるBcrp1の転写と生成が亢進されていることが示された。これらの結果は、Bcrp1が幹細胞、特にSP細胞に付与する特殊な機能として、酸化ストレス応答による品質管理の可能性を裏打ちするものだと考えられ、この研究のさらなる展開を図っていく。具体的には、平成28年度は、以下の研究を計画する。 ① 酸化ストレス応答におけるBcrp1の役割: Bcrp1は、PPIXの排出を介して活性酸素レベルを調節し、DNAの損傷やミトコンドリアの電子伝達系における活性酸素の消去に関与していると考えらえる。そこで、野生型ES細胞を用いて、FTCによる阻害実験等も含め、H2O2曝露の有無による細胞内PPIXの局在、GSHレベル、ROS濃度、DNA損傷等の多角的な評価系の設定を行う。 ② 過剰発現/ノックダウンES細胞におけるROS制御が分化誘導に及ぼす影響: 誘導型Bcrp1発現/ノックダウンES細胞を用いて、体外分化誘導過程における未分化関連遺伝子や3胚葉への分化マーカー遺伝子の発現の変動をRT-PCRおよびqRT-PCRにより解析する。 最終的に、Bcrp1によるES細胞の品質管理機構や分化スイッチについての解明と応用利用技術の開発をめざす。
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