2016 Fiscal Year Research-status Report
アルツハイマー病克服を目指したアミロイド凝集およびBACE1の阻害剤開発
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26460163
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
浜田 芳男 甲南大学, フロンティアサイエンス研究科, 特別研究員 (70424968)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / アミロイドβ / β‐セクレターゼ / BACE1 / 凝集阻害剤 / 酵素阻害剤 / ドッキング計算 / 創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本は急速に高齢化社会に移行しており、アルツハイマー病患者の増加は国家の基盤を揺るがす社会問題となっているが、未だ根本的治療薬は開発されていない。本研究課題はアルツハイマー病克服を目指し、発症の原因物質であると考えられているアミロイドβペプチドの凝集阻害剤、およびその産生酵素であるβ-セクレターゼ(BACE1)を阻害する医薬候補化合物を複数創製することを目標としている。 ①Aβ凝集阻害剤 現在、報告されているAβ凝集阻害剤はAβ分子の特定の部位を認識するように設計されているが、Aβは会合状態によりモノマー、オリゴマー、フィブリルなど様々の形態が知られており、固体NMRにより複数の立体構造が提案されている。例えばAβの凝集過程に重要な役割を果たすKLVFFA配列に結合する阻害剤が報告されているが、KLVFFAモチーフはモノマーにもオリゴマーにも存在し、阻害剤はAβの構造の一部を認識するのみであり、凝集阻害メカニズムの解析や評価のあり方に問題があった。本研究代表者は、オリゴマー中のAβ分子の立体構造を決定する重要な部分はAβ中のターン構造であるとの仮説に基づき、Aβのターン構造を認識する阻害剤を設計した。 ②BACE1阻害剤 BACE1のX線回折による結晶構造およびSwedish-mutant APP配列に基づいた阻害剤が報告されて以来、多くの阻害剤が報告されてきた。しかしながら、野生型とSwedish-mutant型のAPPのkm値はほとんど同じであり、BACE1の活性中心に対する親和性は同程度であると思われる。Swedish-mutant型のAPPはkcatの値が高いため、BACE1により切断されやすいと考えられが、このような相互作用は阻害剤として好ましくない。本研究代表者はこの点に着目し、Swedish-mutant型のAPPとBACE1の相互作用に基づかない阻害剤を設計した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①Aβ凝集阻害剤 本研究代表者はAβのターン構造をミミックするリンカーを有するペプチドを合成し、凝集阻害剤ライブラリーを作製した。この凝集阻害剤は特定の立体構造を有するAβコンホマーを特異的に認識する。この凝集阻害剤ライブラリーを用いて、Aβ凝集体には(27-31)-turn Aβと、ごく僅かに(25-28)-turn Aβが混在していることを明らかにした。しかしながら、これらの阻害剤はリンカーとして複雑な非ペプチド部分を有している。そこでリンカー部分をプロリン3残基に置換した阻害剤も合成した。この阻害剤はアミノ酸のみで構成されており、これらのアミノ酸配列をコードしたDNAを用いたアルツハイマー病の遺伝子治療にも応用できると考えられる。今後、これらの阻害剤ライブラリーを用いて、より実用的な低分子Aβ阻害剤を開発したい。 ②BACE1阻害剤 多くの研究者はSwedish-mutant APP配列に基づいてBACE1阻害剤を設計してきた。しかしながら、野生型とSwedish-mutant型のAPPのBACE1の活性中心に対する親和性はほとんど同じであり、このような相互作用は阻害剤として好ましくないと思われた。Swedish-mutant型BACE1阻害剤とBACE1の活性中心に存在するArg235側鎖との相互作用は水素結合であり、本研究代表者は、強力な阻害活性を有する非Swedish-mutant型BACE1阻害剤の多くは、Arg235のグアニジル平面のπ軌道と相互作用していることを見出した。そこで、本研究代表者は電子密度が低いグアニジル平面と強力に相互作用できるelectron donor bioisostereの量子化学における新しい概念を提唱し、強力なBACE1阻害剤を設計した。さらに、実用的な治療薬を創製するため、アミド結合に環状構造を導入した阻害剤を設計した。
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Strategy for Future Research Activity |
①Aβ凝集阻害剤 本研究代表者が合成した凝集阻害剤はKLVFFAより強力な凝集阻害活性を示したが、分子内にペプチド鎖を有しており、分子量も比較的大きい。そこで、低分子で非ペプチドの阻害剤を設計する。阻害剤はAβ凝集体の表面に結合するため、結合していない部分を非ペプチドに置換することにより、低分子化かつ生体内酵素に対する抵抗性および膜透過性を改善する。 ②BACE1阻害剤 本研究代表者が提唱したelectron donor bioisostereの概念を使って強力な非ペプチド型の阻害剤を設計しているが、細胞(ヒトBACE1を発現させたHEK-293)で評価したところ、ペプチド型と非ペプチド型の阻害剤において阻害活性に差が見られなかった。これは両者の阻害剤の膜透過性に差がないことを示す。そこで次の3つの戦略で、実用的な治療薬の創製を目指す。一つは、BACE1の活性中心との相互作用で必要のないと思われるP1’部位の削除による低分子化。二つ目にはアミド結合に環状構造を導入することでlogP値を上げ膜透過性を改善するとともに、生体内酵素の抵抗性を付与する。三つ目は新規骨格の導入である。すでに、本研究代表者は弱い阻害活性を示す新規骨格をいくつか見出しており、さらに最適化を行う。この新規化合物は特許出願も可能であると考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年に所属機関が神戸薬科大学から甲南大学へと変更になった。そのため、大型の装置や試薬などの購入を次年度に繰り越した。また、神戸薬科大学では化合物の有機合成が中心だったが、研究の進捗に伴い化合物の評価系に重点を移す必要があり、評価系の構築や新たな試薬・機材の発注は予算や時間配分の都合上、所属機関の変更後が望ましいと思われ、研究課題の補助事業期間を延長して、本研究課題を遂行していく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
阻害活性を有するいくつかの新規化合物を見出しているので、阻害剤の評価実験を行う。そのための酵素、試薬、実験器具などを購入する。 また、前年度に特許を出願しており、特許の産業化のため、国際学会などで発表を行う。
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Remarks |
本研究課題による成果がF1000primeの推薦論文に選ばれました。 F1000Prime は医学・生物学分野の論文から重要な論文を選び、公表しています。トムソンロイターの評価方法は被引用度を重視しますが、F1000Prime は科学者の査読で選別しており、その分野の貢献度・重要性を重視しています。これに選ばれる論文は全世界の医学・生物学系論文の上位2%程度で、かなり狭き門となっています。
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Research Products
(18 results)