2015 Fiscal Year Research-status Report
舌咽神経の発生を統御する分子基盤と咽頭弓分節の連関
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26460257
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
大久保 直 北里大学, 医学部, 准教授 (10450719)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 舌咽神経 / Ripply3 / Tbx1 / epibranchial placode / 咽頭弓分節 |
Outline of Annual Research Achievements |
成体において無数の神経細胞が、秩序だって連結し機能するには、胎仔期に神経細胞が適切な数生み出され、適切な場所へ移動し、そして標的に軸索を伸長しネットワークを構築しなければならない。特に胎仔期は、神経系の組織以外の細胞もダイナミックに増殖、移動、分化しており、マウスでは、胎生8.5~10.5 日の間に咽頭弓の分節化が起こる。その間に外胚葉の鰓上板から派生した神経前駆細胞は、脳神経節(VII, IX, X)を形成し、それらの軸索は各咽頭弓分節に沿って、軸索を確実に標的へ投射する。例えば、舌咽神経(IX)は、舌後方の有郭乳頭の味蕾へ軸索を伸ばし味覚受容に関わる。 平成27年度は、2つの遺伝子改変マウス(Tbx1ノックアウトとRipply3ノックアウトマウス)を用いて、咽頭弓分節の異常と脳神経の軸索伸長異常の関連性を解析した。Tbx1は、ヒトの先天性心疾患(DiGeorge症候群)の原因遺伝子で、一方Ripply3はTbx1の転写調節因子である。各ノックアウトマウスは、咽頭弓分節の表現型は異なるが、いずれも舌咽神経の軸索の伸長が大きく阻害され、その結果、舌の有郭乳頭の味蕾形成に異常が生ずることを明らかにし、原著論文として発表した(Okubo and Takada 2015 Dev Dyn)。 Ripply3の機能を詳細に明らかにするため、酵母を用いたTwo-hybrid スクリーニングにより、Ripply3と結合する遺伝子を複数同定している。27年度はそのうちのGlyr1遺伝子について解析を進めた。Glyr1は、種を超えて配列よく保存された遺伝子であるが、詳細な機能については全く分かっていない。そこで、マウス胚と培養細胞を用いて組織や細胞における局在を調べた結果、核に局在することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Tbx1およびRipply3ノックアウトマウスにおける舌咽神経の表現型に関して、定量的、形態学的な解析が完了し原著論文として報告することができた。また、Ripply3と結合する因子についていくつか新たな知見を得ることができた。そのうちWtipについては、ノックアウトマウスの作製が順調に進むと同時に、培養細胞を用いた解析からRipply3との詳細な細胞内局在が明らかとなった。Glyr1についても、組織、細胞内局在が明らかとなりRipply3とともに核に局在することを明らかにした。さらに、Ripply3発現細胞の発生運命を知ることは、Ripply3の機能を知る上でも重要である。現在、Ripply3プロモーターにcreをつないだトランスジェニックマウスとRosa26Rレポーターマウスを掛け合わせ、咽頭弓分節過程におけるRipply3発現細胞の系譜解析を進めている。以上から、おおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
Glyr1については、核に局在することと保存されたAT-hookモチーフを有することを踏まえ、培養細胞を用いてTbx1とRipply3の転写調節に対する影響について検討する。また、生体内におけるGlyr1の機能を明らかにするため、CRISPR Cas9によるGlyr1ゲノム編集マウス作製のためのベクターを構築した。現在、エレクトロポレーションによる受精卵へのCas9遺伝子の新たな導入法の確立を進めている。 発生過程においてRipply3発現細胞の発生運命を追跡するため、Ripply3-cre:EGFPトランスジェニックマウスとRosa26レポーターマウスを用いて系譜解析を行っている。特に、epibranchial placode由来の脳神経節の発生過程に注目し、どの神経節が標識されるのか他のマーカー分子との二重染色により詳細に観察する。 レチノイン酸(RA)シグナルによるRipply3遺伝子の発現調節機構と舌咽神経形成への影響を調べる。Ripply3の発現に関しては、Ripply3-cre:EGFPトランスジェニックマウスを用いることで簡便に可視化できることから、RA 受容体のインバースアゴニスト(BMS493)やアンタゴニスト(BMS614)に暴露したマウス胎仔についてEGFPの発現を指標に咽頭弓分節および舌咽神経形成へのRAシグナルの影響を検討する。
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Causes of Carryover |
次年度予算および前倒し請求により、エレクトロポレーション法による新たな遺伝子導入装置を購入し、ゲノム編集によるノックアウトマウスの作製を加速させるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
BEX社 CUY21 EDIT II 遺伝子導入装置を新たに導入し、エレクトロポレーション法によるGlyr1遺伝子のゲノム編集マウスの作製を進める。この方法により、ノックアウトマウスやノックインマウスの作製が低コストとなるだけでなく作製期間も短縮され、表現型の解析に要す時間を十分に確保できる。
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