2015 Fiscal Year Research-status Report
我が国のがん検診における過剰診断の推計と医療資源消費に関する研究
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26460620
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
濱島 ちさと 国立研究開発法人国立がん研究センター, 社会と健康研究センター, 室長 (30286447)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 医療経済学 / 過剰診断 / 過剰治療 / 医療資源 / がん検診 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃がん検診を例に、X線検診と比較した内視鏡検診の過剰診断について、新潟県の胃がん罹患率・死亡率の推移をもとに検討した。 新潟市では2003年度から内視鏡検診を導入し、X線検診の両者が胃がん検診として行われている。一方、新潟市以外の市町村ではX線検診のみが実施されている。内視鏡検診はX線検診に比べがん発見率も高く、また早期がん割合も高いことから、過剰診断例が含まれている可能性がある。そこで、新潟市と新潟市以外の全市町村について、胃がんの年齢調整罹患率・死亡率の推移を検討した。胃がん罹患率は新潟県がん登録の進行度分類に基づき、進行度1(限局)と進行度2-4(所属リンパ節転移、隣接臓器浸潤、遠隔転移)に分けて検討し、深達度不明例は除外した。 2007年から2014年の胃がん年齢調整死亡率(/10万)は、新潟市では45.8から25.8に、新潟市以外の市町村では48.4から32.1に減少した。一方、2007年から2011年の進行度1胃がん年齢調整罹患率(/10万)は、新潟市では108.9から103.7に、新潟市以外の市町村では90.3から87.7に減少した。また、進行度2-4胃がん年齢調整罹患率(/10万)は、新潟市では51.3から53.3に、新潟市以外の市町村では51.1から51.1と変化なく、両群共にほぼ横ばいであった。新潟市では他の市町村に比べ、進行度1の罹患率が高く、死亡率減少の割合が大きかった。この結果は、内視鏡検診の過剰診断の大きさよりもその効果を示唆する可能性がある。2011年の新潟市の内視鏡・X線検診合わせた40-79歳受診率は14.7%、その56%を内視鏡検診が占めている。一方、新潟市以外の市町村の受診率は10%であった。胃がん検診の受診率が低いことから、両群の胃がん罹患率・死亡率の変化は胃がん検診に帰することはできず、さらなる検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がん検診の導入の判断には、その利益となる死亡率減少効果と不利益のバランスを考慮して検討する必要がある。各種がん検診の死亡率減少効果については、我が国での検証も進みつつあるが、不利益の中で最も大きな影響をもたらす「過剰診断」についての検討は進んでいない。しかし、不必要な治療や過剰治療をもたらす「過剰診断」は医療資源消費の観点からも推計が必要である。 がん検診の過剰診断の推計方法については、無作為化比較対照試験、コホート研究、罹患率・死亡率の時系列研究、モデル評価が用いられている。しかし、各方法共に限界があり、その算出方法は未だ標準化されていない。無作為化比較対照試験をもとにした推計方法が最も適切な方法とされているが、介入終了時に追加的に介入群・対照群に介入対象となる検診を提供していない場合に限定される。このため、無作為化比較対照試験データを用いた場合でも、過剰診断の推計は限定される。マンモグラフィによる乳がん検診は8件行われているが、このうち上記に該当するのは2件であり、その結果からマンモグラフィの過剰診断は10~20%と推計されている(Marmot MG,BJC:2013)。一方、罹患率・死亡率の時系列研究、モデル評価ではその結果は5~50%と大きな開きがある。我が国におけるがん検診の過剰診断の推計に応用可能な方法として、罹患率・死亡率の時系列研究、モデル評価が考えられるが、未だその報告はない。そこで、平成27年度は、胃がん検診を例に胃がん罹患率・死亡率の時系列推移をもとに過剰診断の推計を試みたが、検診受診率が低いことからその影響は明らかではなかった。次年度以降は、モデル評価など他の方法により、我が国のがん検診における「過剰診断」推計方法を開発し、がん検診における「過剰診断」により医療資源消費を推計する。さらに、利益・不利益バランスに基づくがん検診効率化の検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、我が国におけるがん検診の「過剰診断」を推計するための方法を開発・推計し、「過剰診断」に伴う医療資源消費を検討する。 【①我が国のがん検診における「過剰診断」推計方法の開発と推計】平成26-27年度の研究に基づき、がん検診の過剰診断の推計方法として無作為化比較対照試験、コホート研究、罹患率・死亡率の時系列研究、モデル評価が用いられていることが明らかとなった。我が国におけるがん検診の過剰診断の推計方法としては、無作為化比較対照試験以外の方法が考えられる。罹患率・死亡率の時系列研究については、がん検診受診率が低いことから、その影響が明らかではなかった。このため、平成28年度はコホート研究やモデル評価などによる検討を行う。さらに、我が国におけるがん検診の過剰診断を推計するための方法を開発し、対策型検診として行われている5つのがん検診における「過剰診断」の割合を推計する。 【②がん検診における「過剰診断」による医療資源消費の推計】①の検討に基づき、過剰診断により誘発される「過剰診断」に伴う医療資源消費についての推計を行う。 【③利益・不利益バランスに基づくがん検診効率化の検討】がん検診の利益(死亡率減少効果)と不利益(過剰診断)のバランスを比較検討し定量化することで、不利益を最小化する対象集団(ハイリスクグループ、年齢など)の検討を行う。
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Research Products
(7 results)