2015 Fiscal Year Research-status Report
癌幹細胞マーカーCD44v9を標的とした難治性卵巣がんの治療戦略
Project/Area Number |
26462533
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
棚瀬 康仁 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20423915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉元 千陽 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00526725)
重富 洋志 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20433336)
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 幹細胞マーカー / 卵巣癌分子マーカー / 明細胞癌治療 / スルファサラジン |
Outline of Annual Research Achievements |
子宮内膜症由来の卵巣癌は特定の組織型を示し、特に高頻度にみられる明細胞癌は、化学療法に抵抗性を示し予後不良である。近年 CD44は癌幹細胞マーカーとして注目され、そのバリアントアイソフォー ム(CD44v)にはROSに対する抵抗性を亢進させる機能があり、癌治療抵抗性に寄与していることがわかってきた。我々は、すでに明細胞癌において高頻度にCD44v9が発現することを明らかにしてきた。今回、CD44v9の発癌や抗癌剤耐性獲得への関与を解明し、新たな分子マーカーとしての血清診断と新たな分子標的治療を構築することを目的として研究を行ってきた。子宮内膜症や子宮内膜症由来の明細胞腺癌において、このCD44v9とその下流遺伝子の発現等を調べることで、これらが発癌に関与していることを確認するだけでなく、将来的に血清学的手法を用いた発癌の予知が可能となり得る。また、これまでの報告を再検討すると、明細胞癌の治療の標的となり得る遺伝子・蛋白発現異常として、PIK3CA,ARID1A, ZNF217,mTOR,PTEN,HIF-1α,VEGF,HNF-1β,EGFR等が挙げられる。これらは主に、細胞 CD44v9 は細胞膜上のxCTと結合し、還元型グルタチオン(GSH)の生成を促進しでROS抵抗性を高めることで、治療抵抗性を惹起し、また悪性細胞の生存・増殖を誘導する。今回の研究で我々はxCT特異的阻害剤であるスルファサラジン(炎症性腸疾患や関節リウマチにおいて臨床応用されている)を用いる。本薬剤の悪性腫瘍に対する治療可能性を考慮した研究は未だ無く、明細胞細胞株における治療効果を検討することは、新たな治療の確立に寄与し極めて有意義と考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の実験で、卵巣明細胞腺癌培養細胞株において、ウェスタンブロットによりCD44v9の発現を確認できた。このことから、卵巣明細胞癌に対しCD44v9が治療標的あるいはバイオマーカーとなる可能性が考えられる。CD44vによるシスチンの取り込みが抗酸化作用すなわち抗癌剤抵抗性を生み出すため、xCT(シスチントランスポーター)阻害薬であるスルファサラジンを用いたin vitro実験を行った。卵巣明細胞癌培養細胞株に対して、まずスルファサラジン単剤を投与したところ、細胞増殖能は有意に低下した(IC50 = 1mM)。これはCD44v発現癌細胞の抗酸化能が低下することで、自然発生する酸化ストレスへの感受性が高まり、癌細胞がアポトーシスに至ったと考えられる。次に、抗癌剤併用にて殺癌細胞効果に上乗せ効果を認めるかを確認するために、スルファサラジンとパクリタキセル・シスプラチン・ブレオマイシン・Chk1 inhibitorとを様々な濃度で組み合わせて投与する実験を行った。スルファサラジンを高用量で投与した場合、どの抗癌剤との組み合わせでも明らかな相加相乗効果は認めなかった。しかし、スルファサラジン単剤ではほとんど細胞増殖抑制しない程度の低用量(0.1mM)にて投与した場合、パクリタキセルとシスプラチンとの併用において細胞増殖能は相加的に低下した。これは、少量のスルファサラジンにより抗酸化能を軽度低下させることで、抗癌剤による高度の酸化ストレスに対して感受性が非常に高まったためと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
in vitro実験において、卵巣明細胞癌培養細胞株に対し、スルファサラジンとパクリタキセルあるいはシスプラチンとの併用投与を行い、細胞イメージングシステム(IncuCyte Zoom)を用いて、アポトーシスが誘導されているかを評価する。その後、in vivo実験として、ヌードマウスに卵巣明細胞癌培養細胞株を移植し、スルファサラジン単剤や抗癌剤併用投与を行う。ROSレベルに差が現れるかどうかを原発巣・転移巣を摘出し蛍光プローブを用いて生化学的に検討する。さらに、腫瘍組織内に活性酸素が蓄積し、酸化ストレスシグナルの活性化がおこっているかを評価する。 in vitro実験にてスルファサラジンと抗癌剤との併用投与の有用性を確認できれば、パクリタキセルやシスプラチンは実臨床においても卵巣明細胞癌に対し使用している薬剤であるため、「スルファサラジンの上乗せ」治療が期待できることとなる。 引き続きCD44v9が卵巣明細胞腺癌の抗癌剤抵抗性に寄与しているかを調べるために、明細胞腺癌培養細胞株を用いて実験を行う。そのため細胞培養関連試薬が必要である。抗癌剤感受性試験を行うための抗癌剤(パクリタキセル・シスプラチン)やMTTアッセイなどの試薬、アポトーシスの誘導を評価するためのIncuCyte関連物品、in vitro実験のためのヌードマウス、活性酸素の動態を評価するための蛍光顕微鏡関連試薬、などを購入する必要がある。
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