2016 Fiscal Year Research-status Report
脳卒中患者の音楽療法併用リハビリにおける看護支援プログラムの開発
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26463454
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
中島 淑恵 東海大学, 健康科学部, 講師 (90459131)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音楽併用リハビリ / 運動意図 / 運動実行 / 運動準備脳電位 / 補足運動野 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
音楽を併用したリハビリテーション(音楽併用リハビリ)は,精神的,身体的な機能向上を図る可能性がある.そこで,本研究では,音楽併用リハビリの有用性を,音楽が運動意図に影響を与えるか,その精神作用と身体活動への準備状態の向上について評価し,長期化するリハビリにおける看護方策を構築することを目的に実施した. 方法としては,音楽と音楽とは認識できない課題(非音楽課題)を用いて,ボタン押し運動の運動準備電位に違いがあるかを検討した. 第1段階目としては,非音楽課題にメトロノーム音,認知度の高い行進曲を音楽課題に用いて,意図的なボタン押し課題を実行している際の運動準備状態を,運動準備脳電位を指標に検討した.健康な右利きの被験者10名を対象とし,右手ボタン押し運動における運動準備脳電位を脳波計測により評価した結果,音楽課題聴取下でボタン押しをする際に,非音楽課題に比べて,C3領域の運動準備早期成分の潜時が有意に増大した.運動準備早期成分は補足運動野などの運動開始時の運動制御活動を反映するといわれるため,音楽課題下における随意的な運動準備状態が惹起されやすい傾向にあることが示唆された. そこで,第2段階として,非音楽課題には,拍などの運動キューのタイミングも取れない逆再生音楽を用いて,音楽課題との運動準備状態の違いを検討した.その結果,音楽課題聴取下で右手ボタン押しをする際に,非音楽課題に比べて,Cz領域の運動順位後期成分の潜時が有意に増大した.これは,運動意図から運動実行までの準備状態が高まったことを示し,感覚情報処理を通じて運動を実行する運動前野の活動を受け,大脳辺縁系との連結が強いとされる補足運動野が運動プログラムに基づく運動実行を促進した可能性があるとも考えられる. よって,本年度はこの結果に基づき,考察を深め,学会や論文により成果を発表する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成28年度までに,実験機器やデータ管理のハードディスクに不具合が生じたことに加え,研究責任者の所属移動が重なった.それにより,研究の進捗は遅延している状態である.平成29年度は,研究期間延長申請により承認をいただいたため,これまでの研究成果を学会および学会誌にて発表し報告することで,音楽併用リハビリプログラムの意義や活用の可能性について広く社会に提起していく予定である. 平成28年度は,平成27年度までの研究進捗遅延を回復すべくデータ収集を進めた.しかしながら,年度当初にそれまで蓄積したデータを保存したハードディスクに不具合が生じ,データ復旧に時間と経費を要した.データ復旧後,再度,音楽課題および非音楽課題を併用したボタン押しの運動準備状態の差異に関して検討を行い,非音楽課題内容を変更して更に結果の推考を進めた.その結果,音楽と認識できない課題を非音楽課題として聴取しボタン押しを行う際の運動準備脳電位と音楽課題の場合と比較したところ,Cz領域において,運動準備脳電位後期に音楽課題において有意な潜時の増大が認められた.これにより,補足運動野の活動は音楽の聴取により何らかの影響を受ける可能性ついて示唆を得た. 以上を踏まえ,随意運動の実行に際し協調運動などの身体的作用,および,意図に基づく運動実行などの精神的作用について遂行を重ね,成果をまとめる予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度にあたる平成29年は,学会発表のなかで議論を進めながら推考を重ね,年度末には論文作成,論文投稿を行う予定である.学会発表は,8月30日から開催される「The 16 th European Congress of Clinical Neurophysiology」に抄録を提出した.発表抄録が採択された場合は,ポスターにて本研究の成果について発表し,参加者とディスカッションを行う. また,そこで新たな知見を得られれば,成果に関する議論について内容をブラッシュアップする予定である.その他日本臨床神経生理学会,日本看護科学学会にて学会発表を予定している. また,論文を投稿する学術誌としては,Neurological Researchへの投稿を検討している.この学会誌は,音楽を併用した運動に関して掲載歴があり,リハビリテーション.看護,神経科学に関する専門家が,高い関心を寄せる雑誌である.本研究成果に関する論文が掲載されることで,あらゆる国や地域における専門家らの関心を引く可能性がある.それにより,大規模な臨床介入研究につながる可能性もあり,音楽を併用した臨床研究の多くの課題を解決した研究に発展するかもしれない.よって,本年度は昨年度までに得られた意義ある結果を十分な議論の基に考察し,成果を公表するための準備を行うこととする. 延長申請により繰り越した未使用の助成金は,学会発表のための旅費,および,学会投稿にかかわる英文校正および論文掲載料に使用する予定である.本年度の研究活動によって,本研究の成果は最終的なアウトカムを検証し,臨床における音楽併用リハビリのプログラムを構築できる予定である.
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Causes of Carryover |
研究計画の遅延により,成果報告および成果のまとめに関して予算計上していた必要経費(旅費・印刷刊行費・論文掲載料・英文校正)を繰り越した.人件費・謝金については,データ入力謝金費用を予算計上していたが,ハードディスクの破損や機器のトラブルにより,データの見直し及び管理のために研究代表者がすべて入力・管理している.そのため,その費用が余剰分となった.また,物品費に関しては,平成27年度,平成28年度に実験機器及びハードディスクの破損によって必要経費が予算計上を上回った.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果に関する社会啓発や,学会及び論文発表のために,次年度に繰り越した助成金を使用する予定である.具体的な使用計画としては,欧州での学会発表の旅費及び参加費,学会発表での英文校正及び論文掲載料,本研究課題による研究成果を社会に啓発するための冊子作製・印刷費及び作業謝金・通信費に活用する予定である.
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