2015 Fiscal Year Research-status Report
福島県の帰還困難区域内でみられる牛の皮膚多発性白斑の病態解明
Project/Area Number |
26511002
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
佐々木 淳 岩手大学, 農学部, 助教 (60389682)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 病理学 / 牛 / 黒毛和種 / 福島 / 帰還困難区域 / 放射線 / 白斑 / 東京電力福島第一原子力発電所 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、福島県の帰還困難区域内で飼育・維持されている黒毛和種牛について、皮膚の白斑やその他に発生のみられた疾患について病理学的に検索した。昨年度より継続観察している白斑牛の症例は、Y牧場(4例)、I牧場(14例)の合計18例で、今年度はおよそ三カ月ごとの経時的観察に加えて、メラノサイトとメラニン色素の局在についてより詳細な検索を行うために、白斑牛4例の皮膚生検を実施した。この他、I牧場とO牧場では高度削痩、食欲不振、眼球突出、リンパ節の腫大などの臨床症状を呈する症例が1例ずつ認められたことから、それぞれ病理解剖を実施して組織学的な検索を行った。白斑の肉眼的および組織学的所見は、昨年度の検索内容と同様であった。白斑病変部のメラノサイトの局在を明らかにし、さらにメラノサイト数を比較・検討する目的で皮膚の凍結組織を採材してDOPA法を実施したところ、メラノサイト数の有意な減少が明らかとなった。白斑の部位によってはメラノサイトの減少とともにメラニン色素も減少、消失している領域があった。電子顕微鏡による超微形態学的観察では、メラノサイトの細胞質内においてメラニン色素の前駆体であるプレメラノゾームの局在を確認することができたことから、メラノサイトがメラニン色素を産生する機序は完全に消失していないことが判明した。以上の検索結果より、白斑の病理発生にはメラノサイトの増殖能とメラニン色素合成能の双方の低下が関連していることが示された。病理解剖を行った2例は、リンパ節の腫瘍化や第四胃壁、腹腔内をはじめとするほぼ全身各所脂肪組織に腫瘍浸潤がみとめられた。組織学的には、Bリンパ球由来の異型リンパ球による腫瘍性増殖がみられたことから、リンパ腫と診断した。いずれの症例も末梢血液中の牛白血病ウイルス抗体価が陽性であったことから、病因学的には牛白血病ウイルスに起因する地方病性牛白血病と考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度は白斑の病理学的特徴を把握し、2015年度は白斑の病理発生を構築する上で重要なポイントとなるメラノサイトの数とメラニン色素の量が健常部と比較して有意に減少していることを解明した。その他の疾患については各年度ごとにそれぞれ診断できており、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年度の研究成果より、白斑の病変部ではメラノサイトとメラニン色素の減少が有意に認められることが明らかとなった。メラノサイトの増殖能とメラニン色素の形成能の両方にはPGE2やPGF2α、α-MSHなどの生物活性因子の関与が考えられている。角化細胞とメラノサイト間に介在するこれらの生物活性因子と白斑発生との関連の追求が今後の主な課題となる。また、ヒトの尋常性白斑の原因の一つとして考えられている自己免疫的な機序についても完全には除外できていないことから、抗メラノサイト抗体の有無についても検討する必要がある。
|
Research Products
(1 results)