2014 Fiscal Year Research-status Report
脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から
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26540070
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
幸田 正典 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192052)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己鏡映像認知 / 硬骨魚類 / 社会的認知 / 脊椎動物 / 自己認識 / 他者認識 / 意図的だまし |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究は、近年注目を集めている硬骨魚類の高い社会認知性に関するさまざまな実証研究の実施を目指している。本年度は我々が明らかにしているホンソメワケベラ(ホンソメ)の自己鏡映像認知に関し、さらなる追加分析を行い、論文公表に向けた準備を行った。また、ホンソメを用いたオペラント条件付けに基づく推移的推察研究を実施し、3個体中2個体で実験に成功した。このプロセスによる推移的推察は魚類では世界でも全く初めての研究例であり、魚類でも社会関係以外での一般的な事象でも推移的推察ができることを示した意義は大きく、霊長類や社会性の発達した哺乳類、カラス類で考えられてきた社会的知性が魚類で検証されたわけであり、この研究成果の意味は大きい。今年度さらに実験例を増やし、成果公表に持っていきたい。順位による推移的推察の2編の論文を投稿した。 魚類の自己鏡映像認知に関しては、カワスズメ科魚類のプルチャーでも実施したが、最終的には「マークテスト」のマークに対する興味あるいは関心が低いため、鏡映像認知を証明するには至っていない。しかし、我々はプルチャーも自己鏡映像認知ができると考えており、「マークテスト」の改善が求められる。 魚類の顔認識に関する実験では、プルチャーは見慣れた「隣人」と新規個体を顔の模様だけで区別している。本研究ではその認知が、ヒトや一部哺乳類と同様に顔模様を「図形」として認知しているとの仮説を検証することを目指した。効果的な実験のため「倒立効果」の存在の検証を目標としたが、結果はうまくいっていない。その大きな理由は実験設定のあり方にあり、次年度ではそれを改良し取り組む。近年脊椎動物全般で脳全体や個別部位の相同性が報告されている。我々は、顔認識能力は脊椎動物の初期段階で生じていると考えており、顔認識機構や顔神経の存在も哺乳類と魚類で相同性がある可能性をも考慮し実験している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずは、ホンソメでのオペラント条件付けを用いた推移的推察実験の成功が大きい。魚類での実験のため装置の開発に様々な工夫が必要であったが、成功したことは大きい。これにより、初期脊椎動物である硬骨魚類の段階で、物事の捉え方が、魚類から哺乳類、霊長類まで共通機構があるとの我々の仮説も根幹をなす成果である。また、カワスズメを用いた「顔認識」実験は、現在のところ成功していないが、改善すべき点が具体的に明らかになりつつあり、むしろ具体的な実験過程は進んでいるといえ、次年度で「倒立効果」が検証できるものと我々は予測している。倒立効果は、ヒト、霊長類、一部哺乳類やセキセイインコなどで報告があるが、もし、魚類でも生じていることになれば、これまでの「常識」を覆す成果であり、かつ我々の脊椎動物の認知進化の考えを支持する重要な検証例となる。このほか、南米のデスカスでも顔認知実験を行い、側面の顔模様が識別に重要な信号であるなど、成果が上がっている。また、多くのサンゴ礁魚の種間比較からも顔に個体変異のある色彩模様が発達しているなど、魚類での顔認識の普遍性を示唆する証拠も得られつつある。 また、自己鏡映像認知に関しても、ホンソメワケベラ以外の社会性魚類での検証を目指していきたい。最終的には「マークテスト」に合格する必要がるが、このテストの改善が重要であり、この克服は本研究だけでなく、多くの動物での自己鏡像認知実験の結果を一気にひっくり返す可能性がある(できないと考えられてきた動物ができると結論される)。 このほか、縄張り性魚類でのなわばり隣人間での「親敵効果」の検証や、そこでの「tit for tat」戦略の縦横性に関する室内実験、協同的一妻二夫魚の雌による雄の父性認識の操作の検証実験など、いくつもの成果が上がっており、これらを考えると、研究目的は初年度としては概ね達成されていると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、魚類における自己鏡映像認知に関し、ホンソメで補足あるいは追加実験を行う。とくに、「確認行動」(鏡像が自己であるのかどうか、時間的空間的同調性の確認)について、焦点を当てる。この」確認行動は、チンパンジー、アジアゾウ、イルカなど鏡像認知ができる動物に共通して見られており、これが物事の認識における「仮説検証型認知」に該当すると考えられるからである。これは、個体ごとに独特の行動であり、魚からサルまで共通して見られる、研究対象としては貴重な行動ということができる。 また、「マークテスト」の改善についても大きな課題である。アオリイカなど軟体動物の頭足類は無脊椎動物としては唯一自己鏡像認知ができる動物と考えられるが、マークテストに合格していない。最近アカゲザルでマークテストが改善され、本種が自己鏡像認知ができることがようやく確認された。この改善の意義は大きいと言える。 カワスズメを用いた顔認知実験では、「倒立効果」の検証を進めたい。本種は約0.5秒の目視で隣人か新規個体かを見分けている。このような俊敏な区別は顔認知機構なしには考え難区、本種でも倒立効果はじめ顔認知機構の存在を示唆する成果が得られると期待できる。また、近年硬骨魚類と陸上脊椎動物の脳とその構造には強い相同性が相次いで見出されており、社会認知能力にも相同性があるとの我々の仮説に迫る成果が期待される。古生代の水中においても顔は「捕食者」を意味する信号であり、素早い認知機構はが自然淘汰により力強く植えつけられたと我々は考えている。 顔により個体識別について、デスカスやその他魚類でも検証実験を開始しており、体ではなく顔の模様が識別に重要であることがわかってきた。さらに多くの魚種でもどうような実験を行い検討する。
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Causes of Carryover |
室内実験のうち、魚類の顔認識実験で、想定外の途中経過などのため、すべての予定実験が実施を実施せず、今後の検討として残したため、予算執行が一部2年度にずれ込んだ。現在この実験に関し新たな実験設定を立ち上げ実施に移しており、これらの予算も執行予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1年目に予定していたプルチャーを用いた顔認識実験で、実験装置に不備が見つかった。このため、昨年度使用していた6つの実験水槽はいずれも作成し直し、新たな実験を開始する。その他については、ホンソメワケベラの推移的推察や縄張り魚類の親敵効果の検証実験などは、予定どおり実施していく。
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Research Products
(12 results)