2014 Fiscal Year Research-status Report
データ史料批判:非文字史料の情報学的解析に基づくシルクロード像の再構築
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26540178
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Research Institution | National Institute of Informatics |
Principal Investigator |
北本 朝展 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 准教授 (00300707)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 陽子 公益財団法人東洋文庫, その他部局等, その他 (70455195)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | デジタル・ヒューマニティーズ / データ史料批判 / 遺跡データベース / 歴史情報 / セマンティックウェブ / 非文字史料 / データレポジトリ / シルクロード |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の歴史研究は文字史料を主な研究対象としてきたが、研究代表者らは古地図や古写真等の非文字史料を定量的に読み解くという、情報学的解析に基づく史料批判を「データ史料批判」と名付け、シルクロード地域の歴史研究において定説を覆す事実を発見してきた。そこで本研究は、情報プラットフォームを中心とした研究という新しい研究スタイルとして萌芽しつつあるDigital Humanitiesの方法論を援用しつつ、非文字史料を対象とした史料批判を開拓するための研究ツールやデータベースの開発とオープン化を進めることを、研究の目的とする。 平成26年度は、(1)非文字史料批判方法論の確立、および(2)史料批判論の概念に基づく情報プラットフォームの構築、という2つの研究テーマに取り組んだ。まず(2)については、情報プラットフォームの仕様を検討し、既にSemantic Web技術にも対応済みのオープンソースソフトウェアであるDSpaceを改良するという方針を決定した。そしてデータレポジトリに非文字史料を投入し、それに適切な識別子とメタデータを付与することで、データ史料批判のための情報プラットフォームの構築を進めた。 次に(1)については、遺跡データベースを対象としたデータ史料批判として、1.遺跡と遺物の関係、2.遺跡と遺跡の関係に関する概念モデルを作るとともに、2つのモデルを重ね合わせることで、複数の考古探険資料のデータを統合的に扱えることを確認した。その上で、データレポジトリにデータ史料批判の基礎となる中国・タリム盆地の遺跡・遺物データを投入した。さらに、史料批判の基礎となる「史料比較」については、2点の非文字史料を任意の位置で重ねて比較するツールの開発に取り組んだ。これは従来の研究で「マッピニング」として開発したツールの拡張であり、写真など一般の空間画像史料へも適用を広げることで、非文字史料批判の基礎的なツールとしての活用を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
情報プラットフォームの構築については予定通りである。情報プラットフォームの基本的な仕様を決定し、実際にデータの投入を始める段階にまで達することができた。また、メタデータのフォーマットについてもDublin Coreを中心に形式を定めた。このような情報プラットフォームの選択として、長い開発の歴史を持ち豊富な機能を備えているDSpaceというオープンソースソフトウェアを用いることとした。すなわち、オープンソースソフトウェアを本研究の目的に合うように拡張することで、研究に必要な機能を実現するというアプローチである。このように既存の情報資産を最大限に活用することで、限られた研究費と研究期間の中でプロトタイプの構築につなげることができた。なお、遺跡データのためのメタデータとしては、International Core Data Standard for Archaeological Sites and Monumentsを中心に検討しており、こちらもデータレポジトリへの実装を進めている。 一方、非文字史料方法論の確立については、おおむね順調に進展している。まず平成27年度以降に実施する予定であったデータ投入という作業を、平成26年度に前倒しで実施することができた。次に遺跡・遺物のモデリングという研究テーマについても検討を深めることはできたが、具体的な手順に関してはデータを投入した後にその結果を見ながら検討するフェーズも必要である。そのためこの研究テーマについては、平成26年度に開始したが、平成27年度にも引き続き継続的に取り組んでいくこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
情報プラットフォームの構築については、Semantic Web技術の一つとして発展してきたSPARQL検索言語を活用して、非文字史料批判の方法論を発展させるという点が、今後の研究で重要となってくる萌芽的な研究項目である。システムの利用者は人文学研究者であることから、この言語を直接書き下すことが可能とは考えにくい。ゆえに、バックエンドでこの機能を活用できるようなフロントエンドのウェブインタフェースを構築し、それを史料批判における相互連関的解釈の支援という文脈で発展させていくことが、今後の研究において重要な課題となる。 一方、非文字史料方法論の確立については、理論化とともに実例を見せることも重要である。個々の遺跡に関する基本情報を蓄積したデータベースを活用し、それを古写真や古地図などの非文字史料と相互連関させることによって、どのような新しい事実を発見できるかという点が研究の焦点となる。そこで、データの蓄積とツールの活用を推進するとともに、実データに基づく非文字史料批判の実例を示すという段階までを、当面の研究目標として考えている。実例に適した遺跡ポイントはすでに複数を確保しているため、それらの遺跡を対象とした結果を人々が納得する形で提示できれば、同様の方法論をより広い対象に広げていけることが期待できる。さらに、遺物を所蔵する博物館や現地の考古学者らの興味を惹く事例を示すことで、彼らと共にデータベースを拡充していく勢いを生み出していくという点も、今後の研究推進において重要な課題である。
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Research Products
(7 results)