2014 Fiscal Year Research-status Report
「空飛ぶ円盤」とジャン・コクトー ―「超科学」が文学に及ぼした影響に関する研究
Project/Area Number |
26580061
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
松田 和之 福井大学, 教育地域科学部, 教授 (50239026)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | フランス文学 / コクトー / 超科学 / 現代物理学 / UFO |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀の疑似科学とも言える「超科学」に関するコクトーの知見に学術的な光を当て、それが彼の時間観や死生観に、さらには彼の文学と芸術に与えた影響を解き明かそうとする試みである。初年度となる平成26年度は、先ず、コクトーが晩年に著した評論集『知られざる者の日記』 (1953)の「距離について」の章の読解に取り組んだ。そこでは、時間と空間に関して、現代物理学の知見とは一線を画する持論が展開されており、「超科学」に傾倒したコクトーの真意を探るためには、その内容を充分に把握しておく必要がある。作者自身も認めているように、しばしば錯綜するその文脈を読み解くのは容易ではなかったが、「超科学」とコクトーの接点を探る上で鍵を握ると思われる「時間の遠近法」という考え方に関して、理解を深めることができた。 「超科学」を奉じる在野の学者たちとコクトーが共に興味を示したUFO現象は、当然のことながら本研究の主要な研究対象となる。平成26年度は、晩年のコクトーが残した厖大な日記集『定過去』からUFOに関連した記述を抽出する地道な作業を進めるとともに、UFOを集団催眠による心的現象と捉える当時の一般的な解釈に異論を唱えた彼のUFO観をより正確に理解するために、スイスの心理学者ユングのUFO観との比較考察を試みた。その結果、時間を「遠近法によって引き起こされるひとつの現象」と捉えていたコクトーが、UFO現象をあくまでも現実の物理的な現象と見なし、彼独自の時間観によってそれを説明付けようとしていたことが、改めて確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1954年は、フランス史上かつてない数のUFO目撃談が報告された年である。コクトーが日記にUFOに関する記述を数多く残したのも、1954年を前後する時期だった。平成26年度は、UFO研究の本場であるアメリカのものも含めて、UFO関連の文献・資料に幅広く当たり、この特異な現象に関する基礎知識の涵養に努めたが、肝心の1954年前後のフランスにおけるUFO現象に関しては、当時の新聞・雑誌の記事等を通じてその概要を把握する作業が思うように捗らなかった。 またコクトーのUFO観を知るためには、『定過去』に記されたUFOに関連する記述の全容を把握することが必要となるが、現在のところ、そのための読解作業の進捗状況は決して芳しいとは言えない。UFO現象は、その性格上、アカデミックな学者・知識人は言わずもがな、奔放な想像力で勝負できる作家や詩人たちにとってさえも、安易に公言することが憚られるテーマのひとつであると言える。1955年にアカデミー・フランセーズの会員となったコクトーも例外ではなかったはずである。だが、彼には、世間体を気にすることなく大胆なUFO観を披露できる恰好の場があった。それが『定過去』である。自らの死後に公刊されることを想定していたこの日記集に、彼はUFOに限らず、さまざまなオカルト的なテーマや「超科学」に関する見解を忌憚なく書き留めている。本研究にとって、『定過去』はいわば宝の山だが、それは実に険しく深い山でもある。 平成27年度には、これまでどおり時系列に沿って漫然と日記を読み進めてゆくのではなく、話題と時期を思い切って取捨選択することも検討しなければならない。UFO及び「超科学」に関連しない話題に拘泥することなく、1954年前後の日記に特にスポットを当てながら、『定過去』の読解作業の遅れを取り戻したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
コクトーと「超科学」、特にUFO現象との関わりについて、平成27年度は、平成26年度の研究をさらに発展させ、コクトーと親交があった「超科学」の学者たち、とりわけフランスにおけるUFO研究のパイオニアであり、晩年のコクトーから最大限の信頼と賛辞を寄せられた文筆家エメ・ミシェルに研究の焦点を当てる。その著作は、現在では絶版になっているものが多いが、古書や図書館の蔵書を通じてそれらの内容をできる限り把握し、コクトーが心酔した「超科学」に関するミシェルの見識を理解することに努めたい。従来、学術的な研究対象とされることがほとんどなかったミシェルの人と思想に光を当てることで、コクトー研究の一環に位置付けられる本研究に拡がりを持たせ、ひいては新たな研究テーマの創出にも繋げることができるのではないかと考えている。 コクトー研究とミシェル研究の双方に資する取り組みとして、大学の夏季休暇を利用して渡仏し、パリや南仏各所の図書館や博物館・美術館、古書店において各種文献資料の閲覧及び資料収集を行う(フランスでの滞在期間は3週間程度を予定している)。また、コクトーが眠るパリ近郊のミィ=ラ=フォレに設立されたジャン・コクトー美術館において文献資料や造形資料に接する機会を持つことも計画している。 1958年の6月から7月にかけて開催された「地球と宇宙」博のためにコクトーは2点の巨大なパネルを制作しているが、渡仏時には、現在それらを所蔵しているパリのシテ科学産業博物館をも訪れ、UFOが描き込まれている現物に接して、その詳細と全体像を記録にとどめたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
3年間の研究期間の年度ごとの配分額は、平成26年度が40万円、平成27年度が50万円、平成28年度が10万円となっている。平成27年度は、フランスでのフィールドワークが予定されているため、必然的に大きな金額の研究費を外国旅費に充てることになるが、加えて、その際に使用するモバイル・ノートパソコンの購入も、同年度に予定している。したがって、平成27年度の研究計画を遂行するにあたり、他の二年度に比べて多額の経費が必要となるため、そうした事情をあらかじめ考慮した上で、意図的に平成26年度の経費の消化を控え、未使用額を平成27年度に繰り越して同年度の必要経費に充てることにした。次年度使用額の発生は、計画的になされたものである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
結果的に、平成26年度の配分経費のうちの約34万円が平成27年度に繰り越されることになったが、これを、同年度におけるモバイル・ノートパソコン及びフランス文学関係図書・キリスト教関係図書の購入経費、並びにフランスでのフィールドワークに係る旅費に充てたい。
|