2015 Fiscal Year Research-status Report
「空飛ぶ円盤」とジャン・コクトー ―「超科学」が文学に及ぼした影響に関する研究
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26580061
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
松田 和之 福井大学, 教育地域科学部, 教授 (50239026)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス文学 / コクトー / 超科学 / 前衛考古学 / 空飛ぶ円盤(UFO) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究2年目となる平成27年度は、前年度に引き続き、平成25年に足かけ30年をかけて刊行が完結したコクトーの日記集『定過去』全8巻から「超科学」に属する内容をピックアップし、各々に関して考察を深めた。加えて、それに資する取り組みとして、9月に大学の夏季休暇を利用して渡仏し、現地の図書館や博物館・美術館、古書店において資料収集を行った。 『定過去』において「空飛ぶ円盤」(以下、UFO)と並んで頻繁に言及されている「超科学」の話題として、現代文明をも凌ぐ超古代文明の存在とそれが滅亡する要因となった天変地異の発生に関連するものが挙げられる。平成27年度には、こうしたいわゆる前衛考古学に関するコクトーの知見を分類・把握し、それに関する理解を深めることができた。前衛考古学は一般に疑似科学の一分野と見なされ、アカデミックな研究分野としては認知されていないが、『定過去』には、アトランティスやムーといった超古代文明に関する言及や、その存在の証とされる出土品や伝承品、今で言うところの「オーパーツ」に関する言及、さらにはロシア出身の精神分析医イマヌエル・ヴェリコフスキーの主著『衝突する宇宙』とそこで展開された彼独自の天変地異説への言及が散見し、コクトーが前衛考古学と軌を一にする見解を自家薬籠中のものとしていたことが結論付けられる。 また、渡仏時のフィールドワークの成果を基に、コクトーの教会美術作品にしばしば描かれる「眠る兵士」のモチーフが持つ意味をサンクレティスム(宗教混淆)の観点より考察し、研究論文を通じてその成果を公にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『定過去』の中の「超科学」に関する記述のうち、特にUFOに関連するものに着目し、その内容を把握することで「時間の遠近法」というコクトー特有の時間観・空間観の理解を深めることが本研究の主要な課題であるが、平成27年度は、UFOよりもむしろ超古代文明やヴェリコフスキーに関する記述に興味を惹かれ、その分析に多くの時間を費やしたため、肝心のコクトーのUFO観の追究が思うように捗らなかった。 また、フランスにおけるフィールドワークは、概ね予定していたスケジュールをこなすことができ、有意義であったが、シテ科学産業博物館を訪れ、1958年の6月から7月にかけてパリで開催された「地球と宇宙」博のためにコクトーが制作した2点の巨大パネルの現物に接し、そこに描き込まれたUFOの諸相を詳細に把握する計画については、渡仏時期に折悪く同館が臨時閉館していたこともあり、実行することができなかった。 全般に、UFO関連の調査・研究には停滞が見られるものの、「オーパーツ」も含めた超古代文明に関する話題やヴェリコフスキーの異端的な学説、さらには東洋思想に関する造詣の深さを窺わせる記述に至るまで、『定過去』で披露されているさまざまなオカルト的な知見や「超科学」的な知見について掘り下げて考察することで、それらが単なる雑学にとどまらず、晩年のコクトーが温めていた世界観・時間観に適ったものであることを確認できたのは、望外の収穫だった。
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Strategy for Future Research Activity |
『定過去』の中でコクトーが繰り返し賛辞を寄せている在野の科学者エメ・ミシェル(1919-1992)の思想を理解することは、本研究の重要な課題のひとつに挙げられる。フランスにおけるUFO研究のパイオニアでもあったミシェルの著作のうち、コクトーの生前に刊行された2冊が彼の「超科学」に関する知見と「時間の遠近法」という独自の時間観・空間観に少なからぬ影響を及ぼしたであろうことは、『定過去』の記述からも想像に難くないが、それを確かめるためにも、それらを精読する必要がある。平成27年度にその取り組みを実施する予定であったが、同年度はミシェルの著作を入手し、それらがともに、単なるUFO現象の報告集ではなく、その現象を科学的に(疑似科学的に、あるいは「超科学」的に)解明しようとする労作であることを確認するにとどまった。ミシェルの著作の詳細な内容の把握と分析、そして彼の思想がコクトーの思想に与えた影響の解明については、平成28年度の研究課題としたい。 平成28年度は3年計画の本研究の最終年度にあたるため、「超科学」の知見とコクトーの思想との連関について、平成26年度、27年度の研究成果を基に見解を取りまとめ、「時間の遠近法」を骨子とする彼の時間観や死生観の理解へと繋げるとともに、コクトーと同時代の他の作家や芸術家たちにも目を配り、特にUFO現象に対する反応を手掛かりとして、「超科学」が彼らの思想に影響を及ぼした可能性の有無について考察してみたい。
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Causes of Carryover |
平成27年度に予定していたモバイル・ノート・パソコンの購入を取り止めたため、次年度使用額が生じることになった。機種は古くなったが、現在使用している使い慣れた機器で代用できると判断したため、あえて購入を見送った次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度、27年度から繰り越した金額は、最終年度の研究の進捗状況に応じて、UFO等の「超科学」に関連する物品費(書籍購入費等)及び資料収集のための旅費(国内旅費あるいは外国旅費)等に充てたいと考えている。
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