2016 Fiscal Year Research-status Report
「空飛ぶ円盤」とジャン・コクトー ―「超科学」が文学に及ぼした影響に関する研究
Project/Area Number |
26580061
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
松田 和之 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 教授 (50239026)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | フランス文学 / コクトー / 超科学 / 空飛ぶ円盤(UFO) / 前衛考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終年度にあたる平成28年度には、(1)平成26年度及び27年度の研究成果の取りまとめを行うとともに、(2)コクトーから最大限の信頼と賛辞を寄せられた文筆家でありながら、従来、学術的な研究対象とされることがほとんどなかったエメ・ミシェルに関する研究を進展させるために、フランスにおける資料閲覧・収集に取り組む予定であった。(2)に関しては、諸般の事情が重なり、出張の機会が持てなかったため、同年度中は、(1)に専念し、これまでの研究の成果を2本の学術論文を通じて公表することができた。(2)の課題については、補助事業期間の延長を申請し、その取り組みを翌年度に繰り越すことにした。 (1)の成果として、まず、コクトーが残した大部の日記集『定過去』で取り上げられた数々のオカルト的な話題の中でも、記述内容の質量両面において双璧を成す「前衛考古学」と「空飛ぶ円盤」に焦点を当て、それらに関するコクトーの知見を把握する作業を通じて、現代物理学に代表されるアカデミックな科学に反旗を翻した「超科学」の考え方に彼が共鳴していたことを論証した。ちなみに、コクトーと「超科学」の連関をより深く掘り下げて理解するためのキーパーソンとなるのが、上述したエメ・ミシェルである。 加えて、平成23年度から26年度にかけて行った科研費による研究の成果に本研究の成果を加味し、コクトーが晩年に制作したカトリックの礼拝堂の装飾に古代エジプトに特有の表象が密かに盛り込まれていたことを明らかにするとともに、彼の宗教観や死生観を理解する上で、その鍵を握るのがサンクレティスム(宗教的習合)という考え方であることを論証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、その方向性という点では、当初の計画から大きく外れてはいないものの、進度の点において、思うように捗っていない面があることは否めない。その要因として挙げられるのが、著作物として、そして人物として、本研究において重要な位置を占める『定過去』とエメ・ミシェルの特異な性格である。両者からは、研究対象として扱うことの難しさを、それぞれに痛感させられた。 『定過去』は、古今東西のさまざまな『日記』の中でも、取り上げられた話題の多様性という点で一頭地を抜いており、その資料的価値には計り知れないものがあるが、そこには、老いの繰り言を思わせる記述や極めて個人的な内容の記述が少なからず含まれているため、当初想定したようなペースで読解を進めることができていない。全8巻、全5000頁に及ぶ『定過去』の刊行が始まったのは、詩人の没後二十年にあたる1983年のことであったが、それが完結するまでに30年の月日を要した事実が、この日記集を研究対象とすることの難しさを暗に物語っているように思える。 一方、エメ・ミシェルは、フランスにおける「空飛ぶ円盤」(以下、UFO)研究のパイオニアであったにもかかわらず、現在ではその著作の多くが絶版となっており、怪しげな論評がインターネット上で拡散してはいるものの、学術的な先行研究は皆無に等しい。アカデミックな研究対象から常に除外されてきたUFO研究の分野においてなお等閑視されがちな人物を研究対象に据えることの難しさを、今さらながら実感させられている。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べた(2)の課題に取り組み、その成果を基にミシェルの思想への理解を深めるべく尽力したいが、その際には、彼の難解な理論に闇雲に向き合うのではなく、いわば、コクトーというフィルターを通して、この異能の学者の思想に迫ることが得策であると考えている。例えば、ミシェルの代表的著作である『空飛ぶ円盤に関する基礎知識』 (1954)の読解に取り掛かる際には、同書に寄せられたコクトーの序文が有用な道標となるに違いない。「超科学」に通じるミシェルの思想とコクトーが独自に温めていた「時間の遠近法」なる考え方の接点を探る上で、ミシェル以外にも、ルネ・ベルトランなど、コクトーと親交があった「超科学」の学者たちがいた事実、そして、若き在野の学者たちの常識に囚われない発想に共感したコクトーが彼らの著作に自ら序文を寄せている事実をも、充分に考慮する必要があるだろう。 平成29年度は、本研究の一年遅れの最終年度となるため、平成26年度、27年度、28年度の研究成果を踏まえ、「超科学」の知見と「時間の遠近法」を骨子とするコクトーの時間観や死生観との連関の究明に研究の主眼が置かれことになるが、加えて、コクトーと同時代の文学者たちの中にUFO等の「超科学」的な事象を肯定的に受け止めていた者はいなかったのか、文学作品はもとより、日記や随筆、評論等にも広く目を配り、その可能性を探ってみたい。
|
Causes of Carryover |
当初予定していたモバイル・ノートパソコンの購入を取り止め、現有品で代用することにしたため、結果的に平成28年度に使用できる経費が28万円弱残ることになった。その使途をめぐっては、平成27年度に行ったフランスでのフィールドワークを補完する目的でそれを使用することを想定していたが、諸般の事情が重なり、平成28年度中に外国出張の機会を持つことができなかった。外国旅費に充てることが本研究の趣旨に適った経費の使い道であるという判断に変わりはないため、同年度の経費の消化を控え、補助事業期間の延長を申請することにした。それが承認された結果、平成29年度の使用額が生じることになった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度から繰り越した金額の大方は、コクトー研究とミシェル研究の双方に関する資料閲覧・収集のための外国旅費に充てたい。大学の夏季休暇期間を利用して渡仏し、パリや南仏各所の図書館や博物館・美術館、古書店において各種文献資料の閲覧及び資料収集を行うことを予定している。その他、必要に応じてその一部を「フランス文学」や「超科学」に関連する書籍を購入するための物品費に充てることも考えられる。
|