2015 Fiscal Year Research-status Report
「っ」は無音じゃないの?―書記システムと音声知覚をめぐる発達・言語間比較研究
Project/Area Number |
26590178
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
積山 薫 熊本大学, 文学部, 教授 (70216539)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 音声知覚 / 母語の影響 / 書記システム / 促音 / 言語間比較 / 発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究項目1】言語間比較実験 日本人は摩擦音促音部の有音・無音の区別に鈍感であり、「促音を無音として知覚している」可能性が高い。日本人におけるこの促音部の有音・無音の区別への鈍感さは、「っ」という日本語の書記表象のためであるという仮説を検討する言語間比較研究として、前年度はイタリア在住のイタリア語母語者、オランダ在住のオランダ語母語者、および日本在住の日本語母語者との比較を行った。第2弾として、今年度は、日本にやってきた韓国語母語者が日本語の読み書きを習得するに連れて日本語母語者のような促音部の有音・無音の区別への鈍感さが生じるのかどうかを検討した。その結果、呼称能力(Rapid Automatized Naming)テストの成績を日本語の読み能力の指標とした場合に、この仮説は支持された。今回は被験者数が5名と少なかったことから、より多くの被験者のデータを収集することが望まれる。 【研究項目2】促音知覚の発達に関する実験 読み書きの形式的な教育を受け始める小学校低学年では、「たのしかった」と発声しながら「たのしかた」と「っ」を脱落させて文字表記するケースがかなりみられ、促音の音韻表象が未発達である。前年度は、小学生におけるカナ文字習熟度と促音音韻表象との関係を検討し、その結果、カナ読み書き能力と音韻知覚課題の成績との間に弱い負の相関を認めたが、同時に、読み書きの誤りを問題とするなら就学前の幼児を対象とすべきことも明らかとなった。そこで、今年度は、5~6歳の保育園児を対象として同様の実験をおこなった。暫定的なデータ分析の結果、促音部の有音無音の区別のテスト結果と、促音を正しく書く能力との間に弱い負の相関があるようである。また、5-6歳児においてももっとも多く観察された書きの間違いは促音の脱落もしくは「っ」を違う場所に書く(「こっろけ」)などであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究項目1の言語間比較研究では、すでに当初計画の目標を達成し、現在は当初計画にはなかった点にまで踏み込めている一方で、研究項目2の発達研究においては、前年度の研究が予備実験となり、今年度に新たに保育園児のデータを収集した。
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Strategy for Future Research Activity |
発達研究については、当該年度に収集した就学前の5~6歳児のデータを解析し、論文執筆へと進める。言語間比較研究については、当該年度にこの研究に興味を持つ韓国人留学生がいたために韓国語母語者を対象とした研究を試みたが、熊本大学における留学生数の分布から、今後は中国語母語者も対象とする方がまとまった結果が得られると思われる。
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Research Products
(9 results)