2014 Fiscal Year Research-status Report
重金属安定同位体比の精密測定に基づく新たな古海洋プロクシの開発
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26610182
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宗林 由樹 京都大学, 化学研究所, 教授 (50197000)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 海洋科学 / 化学海洋 / 地球化学 / 環境分析 / 環境変動 / 古海洋 / 重金属 / 安定同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)海水中銅安定同位体比の太平洋,インド洋,大西洋における分布を明らかにした.表層海水の銅同位体比は,河川水,雨水および深層海水の混合によって決まる.植物プランクトンによる銅の取り込みは,海水中銅の濃度を約10分の1まで低下させるが,同位体比にはほとんど影響をおよぼさない.深層海水の銅同位体比は,海水の年齢とともに重くなる.これは,海水中でのスキャベンジが軽い銅同位体を優先的に除去するためである.銅の濃度と同位体比に基づいて,海洋の銅収支の新しいボックスモデルを構築した.これらの成果をNature Communicationsに発表した. (2)モリブデン安定同位体比の測定では,これまで標準物質が確立されていなかった.世界の共同研究者ともに,新しい標準物質を提案した.この基礎となったのは,我々が発表した海水中モリブデンの同位体比の均一性である(Nakagawa et al. 2012). (3)海水中ニッケル,銅,亜鉛の安定同位体比分析法の開発を進めた.この方法は,2 kgくらいの海水から3元素を濃縮分離し,マルチコレクター型ICP質量分析装置で測定する新しい方法である. (4)海水中タングステンの安定同位体比分析法の開発を進めた.キレート樹脂カラムを用いて,海水5~10 kgからタングステンを定量的に回収する方法をほぼ確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古海洋プロクシを確立するために基礎となる海水中重金属(ニッケル,銅,亜鉛,タングステン)の安定同位体比分析法の開発が大きく前進した.銅については,安定同位体比の海洋分布を明らかにし,プロクシを解釈する上での基礎を確立できた.モリブデンについては,新しい同位体比標準物質を共同提案できた.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)初年度の成果を踏まえて,堆積物中モリブデン,タングステン安定同位体比の精密分析法の開発を進める.堆積物試料の分解,キレート樹脂固相抽出,陰イオン交換,蒸発乾固再溶解などを組み合わせて目的元素の濃縮分離法を確立する.マルチコレクター型ICP質量分析装置による測定条件を確立する. (2)海水中ニッケル,銅,亜鉛の安定同位体比分析法を確立し,この方法を用いて,南極海から太平洋までの海水中ニッケル,銅,亜鉛の安定同位体比と濃度の分布を明らかにする. (3)海水中タングステンの安定同位体比分析法を確立し,この方法を用いて,南極海から太平洋までの海水中タングステンの安定同位体比と濃度の分布を明らかにする.
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