2016 Fiscal Year Research-status Report
認知バイアス効果を応用した健康格差対策のための新しい行動変容モデルの開発
Project/Area Number |
26670306
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近藤 尚己 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (20345705)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 善樹 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (80595504)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 行動変容 / 社会経済要因 / 社会疫学 / 健康格差 / マーケティング / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性疾患における健康格差の是正は地球規模の公衆衛生課題であり、社会経済弱者への効果的な介入手段の開発が求められている。行動科学研究により、人はストレス状況下にあると、強い認知バイアスにより衝動的な選択をしやすいことが明らかになってきており、この傾向は企業のマーケティング活動において購買行動を引き起こす目的で日常的に応用されている。これまで行動変容における負の側面と考えられてきた認知バイアスを、保健の目的においてむしろ積極的に活用して、望ましい行動変容(初期選択とその習慣化)を起こすことが可能と考え、現在その理論化と介入手法の収集を進める。保健サービスの企業や行政部門との連携により実証を進め、健康格差の是正に向けた新しい公衆衛生の介入モデルを確立する足がかりを作る。 申請時、①システマティック・レビューと理論化 ②既存データを用いた「自然実験」分析 ③クラスター化比試験の3段階の計画を立てた。①について、初年度は、当初の予定通り、健康行動の変容に活用できそうなマーケティング技術やその事例を収集した。②について、安価でアクセスのよい健診サービスの提供を展開するケアプロ株式会社の協力を受け、過去2年分、110のパチンコ店での320回分の健診業務の営業データを借用し、東京大学倫理審査委員会の承諾を経て分析した。28年度は「③クラスター化比試験」について、調査フィールドとして足立区を選定し、区および地元の飲食店26店舗と協力して、「野菜ましメニューを食べるともれなく50円引き」とする少額インセンティブによる、野菜摂取量の社会階層格差縮小効果を検証する研究を行い、キャンペーンにより野菜ましメニュー注文者1.5倍、店の売り上げ1.7倍という結果を得た。またキャンペーン中はキャンペーン前より低所得者、非正規雇用者の野菜ましメニュー注文割合が増えたという結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、当初予定していた研究を計画通り終了した。成果の一部は週刊東洋経済の特集「健康格差」、NHKスペシャル「健康格差」他、ラジオNIKKEI、他各全国紙など多くのメディアで取り上げられ、認知バイアスやマーケティング手法を活用した保健対策が重要であること、とりわけ健康格差対策に効果的であることをアピールした。健康づくりに関心が持てない人々に対して「思わず健康的な行動をとってしまう」仕組みづくりとして、事例とエビデンスを示していくことで一定の評価を得た。現在2本を査読付き学術雑誌へ投稿中、2本を投稿に向けて執筆中である。関連する総説および書籍が数編出版された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本事業は本年度終了予定であったが、基金化された課題であることを生かして、1年間延長することで、更なる研究の追加により提案したコンセプトの更なる明確化と事例検証によるスケールアップのためのエビデンスを追加することとした。具体的には執筆中・投稿中の論文の出版に加えて、この新しい健康格差対策手法のスケールアップの試みとその検証を行う。足立区が次年度実施する、食育月間における「野菜増しメニュー50円引き」キャンペーンへの参加飲食店の募集の際に、今年度までに報告した効果検証結果を伝えることで参加店舗が増えるかを統計的に検証する等の取り組みを実施する。
|
Causes of Carryover |
研究は当初の計画通り進んだが、成果報告のための論文掲載が遅れているため、成果報告用の費用を年度内に昇華で来なかったため。また、本研究は新たな概念の研究・実践のアプローチを提案する萌芽的研究であるため、期間延長によりその普及と定着のための追加検証をすることで、本研究の価値をさらに高めることが可能と考えたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在査読中の論文および執筆中の論文を年内に2本出版する。また、6月に足立区の業務データを用いて、本研究のコンセプトに基づく行政施策の効果に関する評価を行い、分析・論文化する。
|
Research Products
(22 results)