2015 Fiscal Year Annual Research Report
多雪地における大型哺乳類の分布回復が生態系に及ぼす影響の評価とリスク低減策の提示
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26701007
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江成 広斗 山形大学, 農学部, 准教授 (90584128)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ニホンザル / イノシシ / ニホンジカ / 分布回復 / 生態リスク / 多雪地 / 東北 / カメラトラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
東北多雪地各地において、ニホンジカ・イノシシ・ニホンザルなどの大型哺乳類の分布回復が近年確認されはじめている。本研究は、こうした大型哺乳類の分布回復プロセスの特定と、それに関連する在来生態系や地域社会への影響を多面的に評価することを目的としている。この目的をもとに今年度は以下7つの調査研究を実施した。(1)カメラトラップ法による個体群モニタリング(春-秋):2014年度に設定した大型哺乳類の分布や個体群動態を評価するモニタリングサイト(白神八甲田山系8か所、朝日飯豊山系8か所)において、カメラトラップを設置した。モニタリングサイトは、上記山系内の豪雪地と寡雪地の両方に用意されている。主な結果として、①八甲田山系においてはじめてニホンザル群れの分布回復を確認、②2014年度から継続している朝日サイトではほぼ全域でオスジカの分布を確認、③豪雪地である飯豊山系サイトにおいてイノシシを確認、などであった。(2)音声記録法(秋):昨年度に引き続き、音声を利用したオスジカのラッティングコールを指標としたモニタリング手法の開発を行い、本種の個体数密度との関係を評価した。(3)雪上足跡カウント(冬):上記モニタリングサイトにおいて、足跡カウント法による哺乳類各種の分布評価を実施した。寡雪年であった2015年度、特に朝日飯豊が跨る置賜地域においてイノシシが急速に広域に広がっている現況が明らかにされた。(4)アンケートによる分布推定:山形県と協働で開始した市町村アンケートによる分布評価を2015年度も実施し、その課題を整理した。(6)採食影響評価:大型哺乳類の採食が在来植生に与える影響を定量化するために、2014年度に設置したモニタリング木の評価を行った。(7)腐食連鎖にかかわる評価:哺乳類各種の糞を昆虫群集の資源として評価する実験、および死亡哺乳類個体の腐食連鎖プロセスの評価実験(冬季)を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度に予定していた調査研究はほぼ予定通り進められた。特に、①「音声記録法」については、ラッティングコールを活用した個体群動態評価のプロトモデルが構築されたこと、②「アンケートによる分布推定」については県の特定鳥獣管理計画としても進められることになり、今後の継続的な実施が保証される体制作りが進められたこと、③「腐食連鎖にかかわる評価」については、予定していた実験を繰り上げてすべての作業を終了させられたこと、などは目立った成果である。これらの成果に関して論文発表までには至っていないため、現在の達成度は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
白神八甲田サイトおよび朝日飯豊サイトを中心とした個体群モニタリングのための各種調査(カメラトラップ法・音声記録法・雪上足跡カウント・市町村アンケートによる個体群モニタリング)を継続させ、これらの情報を体系的に評価・整理し、回復個体群の分布拡大予測を進める。一方で、2016年度から開始する、地域ごとの各種産業被害や生活被害に関する脆弱性評価を進め、分布拡大予測とあわせたリスク評価を試みていく予定である。また、すでに基礎データの集積を終えた研究項目について、論文執筆を進めると同時に、保護管理にかかわる側面はホームページや研究集会などを通じて広く社会へ発信していくことを目指す。
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Causes of Carryover |
2014・2015年度の作業進捗状況を鑑み、哺乳類各種へのGPSテレメトリの装着作業(捕獲のための謝金・人件費を含む)を当初計画よりコンパクトなものにしたことが大きな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該作業は2016年度も継続しその残額を使用予定であるが、一部変更した当該作業にかかわる残額予算は、当初予定より多角的に集積をはじめた哺乳類各種の分布データにかかわる地理情報データベースの構築にかかわる人件費・謝金などに割り当てる予定である。
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