2014 Fiscal Year Annual Research Report
パルス中性子及び高エネルギーX線を用いた鉄鋼文化財の非破壊分析手法の確立
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26702004
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
田中 眞奈子 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (70616375)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 非破壊分析 / 鉄鋼文化財 / パルス中性子 / 高エネルギーX線 / 製作技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、X線と異なる特性を持つ中性子を用いて鉄鋼文化財を分析し、結果の総合的解析により材質や内部構造を解明すること、そして最終的には鉄鋼文化財の非破壊分析手法を確立することを目的に「研究実施計画」通りに研究を進め、以下のような成果を得た。 (1)鉄鋼文化財を非破壊で分析する際の指標となる炭素量の異なる鉄鋼標準試料の購入、折り返し鍛錬や鍛接などの加工を施した、たたら製鉄により製造された試料(日本刀製作過程再現試料)の製作を行った。 (2)中性子施設J-PARCにおける鉄鋼文化財のパルス中性子透過分光法による結晶組織情報解析にむけた分析条件を行うと共に、鉄鋼標準試料と日本刀製作過程再現試料を測定し、①炭素量(鉄・鋼・鋳鉄)、②加工方法(鍛造・鋳造)、③試料の厚さの違いが分析結果にどのような影響を与えるのかについて慎重な検討・確認を行った(J-PARC利用採択課題2014A0270)。ブラッグエッジ解析を通して、鍛造品と鋳造品ではαFeの格子定数に明らかな違いが認められ、格子定数を指標に鍛造品と鋳造品の非破壊判別ができる可能性が確認された。また、炭素量の増加に伴いセメンタイト量が増加する傾向が非破壊でも観察されるなど大きな成果を得た。 (3)岐阜工業技術研究所における鉄鋼文化財の高エネルギーX線CTによる内部構造解析のための分析機器の選定、分析条件の検討などを行うと共に、火縄銃断片試料や出土釘試料の分析を行った。高エネルギーX線を用いて鉄鋼文化財中の非金属介在物や鍛接面などが非破壊でどのように観察出来るか検証した。 (4)上記試料の中性子と高エネルギーX線を用いた非破壊分析結果と、破壊分析による組織観察結果の比較・検証を行った。今後、鉄鋼文化財を体系的に測定していく際の基礎データとなり得る貴重な結果を得た。 (5)本年度の成果は、1報の査読付論文、計14件の国際・国内学会などでの発表(うち2件が招待講演)を通して積極的に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り平成26年度の研究を進め、パルス中性子および高エネルギーX線を用いて本年度は鉄鋼標準試料や日本刀製作過程再現試料、火縄銃断面試料などを行いて分析条件や分析方法などの詳細な検討を行った。また、非破壊で得られた結果と金属組織観察結果(破壊分析結果)を比較することで、非破壊分析によって得られた結果の精度を確認し、今後、非破壊で鉄鋼文化財の体系的な分析を行うための基礎データを蓄積することが出来た。本年度は、非破壊で日本古来の鉄鋼文化財の材料特性や製造・加工技術を明らかにし、最終的には鉄文化財の非破壊分析手法の向上に寄与するための基礎固めを実現した。中性子施設J-PARCの2014B期の採択課題については施設側の設備の不具合で実験が取りやめとなってしまったが(キャンセル分については2015年度に振替で実験の可能性あり)、2014A期の採択課題実験において当初予定していた以上の試料の測定を行うことが出来たため、研究全体としてはとても順調に進展している。高エネルギーX線を用いた分析においても岐阜県工業技術研究所の2つのX線CTを用いて実験を行い、非破壊での鉄鋼文化財の材質及び内部構造観察にむけた検証を詳細に行うことが出来た。2015A期のJ-PARCの課題およびSPring-8の課題としても採択されたため、来年度にむけた準備も非常に順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、当初の計画に沿って以下の通り研究を推進していく予定である。 (1)平成26年度に引き続き、鉄鋼文化財を非破壊で分析する際の指標となる炭素量の異なるJIS規格に則った鉄鋼試料および、折り返し鍛錬や鍛接などの日本古来の鉄鋼文化財に用いられている鍛造加工を施したたたら製鉄により製造された試料(日本刀製作過程再現試料)の非破壊分析と破壊分析の更なる比較・検証による基礎データの蓄積。 (2)鍛造で製造されたと考えられる鉄鋼文化財(釘、火縄銃、日本刀など)のJ-PARCでのパルス中性子イメージング実験と岐阜県工業技術研究所や大型放射光施設SPring-8での高エネルギーX線CT撮影。 (3)(1)と(2)の分析結果の比較・検証および(2)の分析結果の総合的解析。 (4)研究成果の積極的な公表。
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Causes of Carryover |
試料を分析するための備品購入費(物品費)については、出来るだけ実験施設などに常備されている備品を用いるよう工夫したため、当初計画より経費の節約ができたため。 また、中性子施設J-PARC2013B期の採択課題実験が、施設側の設備の不具合により中止となり、当初予定していた旅費・人件費を平成26年度に使用しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度以降の鉄鋼文化財の分析にあたり今年度節約した備品購入費(物品費)を利用する予定である。 また、中止となったJ-PARCの2013B期の採択課題実験は平成27年度に振替で実施される可能性があり、当初予定していた旅費・人件費は平成27年度に使用する予定である。
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Research Products
(15 results)