2017 Fiscal Year Annual Research Report
パルス中性子及び高エネルギーX線を用いた鉄鋼文化財の非破壊分析手法の確立
Project/Area Number |
26702004
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
田中 眞奈子 昭和女子大学, 人間文化学部, 講師 (70616375)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 非破壊分析 / 鉄鋼文化財 / パルス中性子 / 高エネルギーX線 / 放射光 / 制作技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、X線と異なる特性を持つ中性子を用いて鉄鋼文化財を分析し、結果の総合的解析により材質や内部構造を解明すること、そして最終的には鉄鋼文化財の非破壊分析手法を確立することを目的としている。平成29年度も「研究実施計画」に沿って研究を進め、以下のように意義のある成果を得ることが出来た。 (1)日本刀断片、火縄銃断片に加え、個人蔵の日本刀、火縄銃、自在置物、そして本研究の最終目標であった美術館所蔵の大変貴重な鉄鋼文化財である自在置物のSPring-8での高エネルギーX線CT測定に取り組んだ。L28B2およびBL20B2で実験を重ね、また実験条件(空間分解能、密度分解能など)の調整・改善に取り組み、日本刀のように30mm程度の厚さのある鉄文化財でも、鋼中の非金属介在物(サイズは30~60μm前後)の配列を非破壊でも明瞭に観察できるようになってきた。(2)パルス中性子透過法を用いてこれまで分析してきた試料(鉄鋼標準試料、たたら製鉄により製造され日本古来の折り返し鍛錬や鍛接などの加工を行った試料(日本刀制作過程再現試料)、和釘、火縄銃、日本刀断片など)について、ブラッグエッジ解析による詳細な解析を進めた。なかでも日本刀制作過程再現試料は、各パラメーター(格子面間隔、歪、結晶子サイズなど)毎に2Dマッピング像の作成に成功し、格子定数の変化を指標とした焼き入れ範囲の可視化など、日本刀の制作工程と結晶組織変化の関係性を非破壊で解明することが出来、大きな成果を得た。(3)試料ごとに、高エネルギーX線を用いた分析結果と、中性子を用いた分析結果の比較検証を行った。X線と中性子の相補利用により非破壊での日本刀や火縄銃、自在置物などの具体的な制作技法や材料特性が解明されてきた。(4)研究成果は、国際会議BUMAⅨなど5件の発表(うち2件が招待講演、2件が国際会議)を通して積極的に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年度はSPring-8で3つの課題採択実験(2017A1718「放射光X線CTを用いた非破壊分析による東京藝術大学大学美術館所蔵 自在蟹香合の内部構造と製造技術の解明」、2017B1760「放射光X線CTを用いた非破壊分析による日本刀内部の非金属介在物の観察 」、2017B1867「放射光X線用いた非破壊分析による自在海老置物に使用されている接着剤の成分同定」)を行い、なかでも本研究の最終目標であった美術館所蔵品(東京藝術大学大学美術館所蔵「自在蟹香合」)の分析に取り組むことが出来た。実験手法も、放射光X線CT、中性子CT、パルス中性子透過法に加え、今年度は放射光蛍光X線分析も新たに行った。それらの相補利用と得られた結果の比較・検証により、火縄銃、日本刀、和釘、自在置物などの材料特性や制作技術を解明することが出来た。実験を重ねるなかで、より最適な分析条件や精度の良いデータを得ることが可能となった。なかでも日本刀制作過程再現試料のパルス中性子透過法ブラッグエッジ解析を進めるなかで、結晶組織情報の2D可視化による、鉄鋼文化財の加工と金属組織の関係性の把握に成功した。以上のように、本年度は、美術館所蔵の貴重な鉄鋼文化財の非破壊分析に取り組むことが出来たことに加え、高エネルギーX線と中性子を用いた分析結果の解析、比較検証を実現出来た。得られた成果は国内外の学会で積極的に発表を行い、日本国内の関連分野の研究者はもとより、ハンガリーやフランス、オランダなど、海外において放射光・中性子を用いて文化財研究を行っている研究者達との意見交換も積極的に行った。研究活動を通して、これまでの実験手法を更に補完できる新たな分析手法の助言も得ることが出来、Budapest Neutron Centerへの実験課題申請をしたところ採択されるなど、当初の計画以上に研究を進展させることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、非常に効率的に研究を推進することが出来、直接経費を節約することが出来た。これまで中性子を用いた鉄鋼文化財の非破壊分析を日本の中性子施設J-PARCで実施してきたが、ヨーロッパにおける文化財の中性子を用いた分析の中核施設であるBudapest Neutron Centerで、パルス中性子を用いた分析を補完できる、精緻な非破壊分析(Prompt Gamma Activation Imaging)が可能であることがわかり、課題を申請したところ2018年度の課題として採択された。そのため、事業期間を延長し、これまで行ってきた高エネルギーX線と中性子を用いた鉄鋼文化財の非破壊分析手法を完成・確立させるために必要な追加実験を行う予定である。また、本研究成果については、大変権威ある国際会議である”Gordon Research Conference on Scientific Methods in Cultural Heritage Research 2018”で招待講演のお話を頂き、参加・講演予定である。今後も積極的に国内外の学会で成果発表を行うとともに論文執筆・投稿をすすめていく。
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Causes of Carryover |
試料を分析するための備品購入費(備品)について、過去に購入したものを継続利用したり、大学や実験施設に常備されている備品を用いるよう努力することで当初計画より節減することが出来た。また、実験補助のための人件費についても、実験を進めるなかで最低限の人数でより効率的に実験が出来るようになり、大幅に節約することが出来た。 次年度使用額は、本研究目的をより精緻に達成するための追加実験を、中性子を用いた文化財研究の欧米の中核拠点であるBudapest Neutron Centerなどで行うために用いる予定である。また、本研究成果を国際会議Gordon Research Conference(招待講演)などで発表するためにも用いる予定である。
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Research Products
(7 results)