2015 Fiscal Year Annual Research Report
自治と気候変動‐デンマーク領グリーンランドにおける「対外的自治」と「対内的自治」
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26703001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 美野梨 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 学術研究員 (90722900)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グリーンランド / 北極域 / 気候変動 / 自治 / 自己決定権 / 資源開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、北極域における気候変動が、グリーンランド自治の文脈でどのように語られ、グリーンランド政治それ自体にいかなる影響を与えているのかを、政府、研究機関、資源開発会社等でのインタビュー調査を盛り込みながら明らかにする。さらに、拙著『自己決定権をめぐる政治学』で導入した、自治を議論する際の新たな分析概念としての「対外的自治」と「対内的自治」を引照しながら、当該域の自治のみならず自治論それ自体の刷新を試みることをも目的とする。
4か年計画の2年度目は、当初の計画を若干変更し、引き続き西部グリーンランドでの調査を実施し(本調査)、次年度に向けた調査のための「予備調査」を中西部グリーンランドで行った。「本調査」では、気候変動と資源開発の実態を調査した。2000年代以降グリーンランドにおける資源開発を牽引してきた英国資本ロンドン・マイニング社が経営難に陥り、イスア鉱区の開発権が香港資本ジェネラル・ナイス社に移された。このことで、それ以前までのヌークに存在していた、資源開発に対する高揚感のようなものは若干弱まっていた。「予備調査」地としての中西部グリーンランド(ケカタースアック、アーシアート)では、主に海生哺乳動物とヒトとの係わりを中心に、気候変動が両者の係わりにどのような影響を与えているのかを調査した。当該域では、西暦1200年頃から狩猟文化を担うチューレ・イヌイットの人たちによって、クジラ、アザラシなどの海生哺乳動物が捕獲されてきた。18世紀以降は植民地捕鯨の拠点となり、現在においてもクジラ等との社会文化的係わりが強い地域として知られている。今年度は、地方議員、役場職員、観光業者、水産会社員などとの対話を通し、調査の土台作りを行った。
その結果、学術論文2本、エッセイ2本、学会報告14本(確定2本含)となり、共編著『アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章』を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、拙著『自己決定権をめぐる政治学』で展開した自治をめぐる議論を、首都ヌークだけでなく、グリーンランド全域にまで適用することで、気候変動と地域自治の相関を明らかにしようとするものである。
平成26年度、27年度では、南部、西部、中西部でのフィールド調査を実施し、現地の声を拾い、報告書類を収集するだけでなく、人的ネットワークの構築にも力を注いだ。地形的理由から町と町との移動が容易ではなく、移動に伴う旅費もかさむため、当初の計画を若干変更したところもあるが、人口2万人近い「大都市」から、5人の「村」に至るまで、異なる状況下の人々にインタビューすることで、気候変動と自治の相関についての知見を積み重ねることができている。
これらのことは、単著としての刊行を前提として、学術論文(2本)や国際・国内学会での発表(12本)に結実している。同時に、一般書『アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章』の刊行も実現でき、研究を社会に還元することもできた。次年度以降も、グリーンランドだけでなく、広く北極域における気候変動の動態との相関を意識したフィールド調査を精力的に行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度同様に、大きな障害・課題はなく、申請書に明示した計画に沿った形で、研究を継続させていきたい。その上で強調しておきたいのは、文理融合を前提としたナショナルフラッグシッププロジェクト「北極域研究推進プロジェクト(ArCS)」が平成27年9月に始動し、それに伴い研究グループの組織化と課題の設定によって、北極域研究の環境が劇的に向上したことである。また、所属する北海道大学に北極域研究センターが設置され、当センターに異動したことも、本課題を遂行する上でプラスに働くであろうと想定される。同僚とのディスカッションを通して、自然科学との協働を意識しながら、本課題の取り組みを推進させていきたい。なお、グリーンランドを含む北極域の政情は変わらず安定しており、気候的に不安定な時期があるものの、概ね計画通り研究を遂行できる環境にあることは付言しておきたい。
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Causes of Carryover |
当初当該研究費で行う予定だった出張について他財源より資金援助を受けることができた。また、スケジュールの都合により当初予定していた長期調査が困難であったため、次年度使用額が生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、夏場に北部グリーンランドでの3週間の調査を予定している。持ち越された研究費は、次年度の北部グリーンランド・カーナークへの渡航費で賄うことを予定している。
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Research Products
(20 results)