2016 Fiscal Year Annual Research Report
自治と気候変動‐デンマーク領グリーンランドにおける「対外的自治」と「対内的自治」
Project/Area Number |
26703001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 美野梨 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 助教 (90722900)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グリーンランド / 北極域 / 気候変動 / 自治 / 自己決定権 / 人間=環境関係 / グリーンランド狩猟・漁労組合(KNAPK) |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、北極域における気候変動が、グリーンランド自治の文脈でどのように語られ、グリーンランド政治それ自体にいかなる影響を与えているのかを、政府、研究機関、資源開発会社等でのインタビュー調査を盛り込みながら明らかにすることである。さらに、拙著『自己決定権をめぐる政治学』(明石書店、2013年)で導入した、自治を議論する際の新たな分析概念としての「対外的自治」と「対内的自治」を引照しながら、当該域の自治のみならず自治論それ自体の刷新を試みることをも目的としている。
今年度(3年度目)は、これまでの現地調査で収集した資料やインタビュー調査で得た知見の整理を行いつつ、昨年度の「予備調査」地である中西部グリーンランド各地(アーシアート、ケカタースアック、キツィスアスイット、イルリサット)での調査を実施し、同時に北部グリーンランド(カナック、シオラパルク)での現地調査も行った。気候変動と資源開発との相関に重きをおいた昨年度の調査に対して、今年度は昨年度の予備調査地である中西部グリーンランドを本調査地としたことから、主に海生哺乳動物とヒトとの係わりを中心に、気候変動という変数が、両者の係わりにどのような影響を与えているのかに関する調査を実施した。今年度は、地方議員、役場職員、観光業者、水産会社員などとの対話だけでなく、複数の元/現役フルタイム・ハンターとの対話を通し、中西部および北部グリーンランドでの人間=環境関係の実相を帰納的に理解しようと試みた。加えて、同時並行で進んでいる他の研究プロジェクトとの協働を図り、成果報告に向けた準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、グリーンランドにおける気候変動と地域自治との相関を明らかにしようとするものである。それは、グリーンランドが、環境変動と社会変化の結節点として位置付けられ、それが全地球的に影響を与え得る可能性を秘めているからである。
昨年度までは、南部、西部、中西部での現地調査を実施し、主に各地域の地方議員や役場職員との対話を通して、気候変動の受け止め方について知見を集積した。南部、西部の各地域は、外国資本の参入などの影響もあって、気候変動を比較的ポジティブに受け止める地域であった。また、新規分野としての資源開発市場に経済的自立の活路を見出そうとしてきた。他方で、中西部や今年度の調査地の一つであった北部は、そういった可能性が相対的に低く、特にデンマーク主導の戦後の定住化政策(G-50, G-60)以降は、陸・海棲哺乳動物や水産資源とともに生きる人たちの生活に少なからぬ変容を強いるものとして気候変動が位置付けられてきた。
今年度は、気候変動に対するこのような地域差を考慮しつつ、気候・海洋環境変化がコミュニティの生業(狩猟・漁労)活動に与える影響について、中西部および北部において主にフルタイム・ハンターへのインタビュー調査を実施した。政治の中枢で語られることに注視しつつも、現場の声をきちんとフォローし、そこで何が問われ、語られているのかを整理し、アウトプットすることが、次年度の目標である。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題は、4か年計画の最終年度(平成29年度)に入る。そのため、今年度は、本研究計画全体を振り返りつつ、この3年間で収集した情報をふまえ、①首都ヌーク、②中西部グリーンランド・ディスコ湾周辺域(アーシアート、ケカタースアック)、そして③南部グリーンランド(タスイサック、カシアスック)でのフォローアップ調査を行う。その上で、グリーンランドにおける自治(自己の行動を律する意思(自律)と、それを具体的に行動に表すこと=自己統治)の動態を把握するところに最終的な目標を置いている。
本研究では、これまでに自治政府が置かれるヌーク(西部)を中心に、ディスコ湾周辺域(中西部)、カナック(北部)、ナルサック含む資源開発区(南部)での調査を実施し、気候(海洋環境)変化がコミュニティに与える影響について知見を蓄積してきた。政治の中枢である西部や、その恩恵を享受し得る可能性がある南部に比して、北部では政治が見えざる仕掛け役となり、多くの場合悪役と認識されてきた。その結果として、北部に住まう少なからぬハンターは、政治への強い不信感を抱いていた。今年度は、最終年度として本研究のまとめ(アウトプット)を意識しつつ、引き続き自治政府・役場・ハンターたちの声をできるだけ集め、彼らから語られる気候変動・資源開発・自治の歴史と争点を明確にしたい。
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Causes of Carryover |
本課題の研究計画調書にも記したように、申請者の研究対象とする北極域はその地理的・気候的理由から一度の現地調査に対して莫大な交通費及び滞在費を要するため、計画上も「旅費等」の経費が大半を占めていた。しかし、2015年以降、北極域・グリーンランドに係わる大型研究プロジェクトが複数立ち上がり、そこからグリーンランド域内移動にかかる費用や滞在費の援助を受けたため、次年度使用額が発生することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
持ち越された研究費は調査費としてはもちろんだが、本年度は事業最終年度であるため、成果報告を兼ねたシンポジウムの開催も計画しており、その開催費用として執行する予定である。
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Research Products
(19 results)