2015 Fiscal Year Research-status Report
ヒト静止立位姿勢の関節間協調運動を創発する神経系の制御戦略
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26750147
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 康之 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30631874)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 姿勢制御 / 間欠制御仮説 / サドル型不安定 / 関節間協調運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,ヒト静止立位時の足関節および股関節の協調運動に着目して,立位姿勢維持の神経制御メカニズムを明らかにすることを目的として姿勢動揺計測実験およびモデルシミュレーションを行っている.先行研究において静止立位時の足および股関節の運動には逆位相の振動が表れることが示された.この足および股関節の協調運動が,どのような姿勢制御戦略の結果であるのかは十分に理解されていない. 足および股関節の逆位相での協調運動を説明する仮説としてCoM制御仮説がある.CoM制御仮説では,中枢神経系は静止立位時の身体質量中心位置(CoM)の前後方向位置が変化しないような制御を行っている,と主張する.これに対し,我々は足および股関節の協調運動は,身体姿勢のサドル型状態空間に存在する安定多様体を指向した間欠的な神経フィードバック制御の結果であると考える(間欠制御仮説).間欠制御仮説では,身体姿勢がサドル型不安定平衡点の安定多様体近傍に存在する時は神経制御を不活性化(off-system)し,安定多様体から離れたら活性化する(on-system)と考える.間欠制御仮説に従った神経制御を行った場合,off-systemにおける安定多様体近傍の振動的ダイナミクスが,身体運動の主成分として表出する. 本研究では,CoM制御仮説が主張する,CoMの前後方向位置が変化しない多様体と立位姿勢の安定多様体の空間的配置を比較した.また,ニュートンの運動の法則に従って想定される足および股関節の角加速度と,姿勢動揺計測実験によって得られた,静止立位時の足および股関節の角加速度を比較した. 結果として,静止立位時の足および股関節に見られる逆位相の運動は,中枢神経系を介した能動的なフィードバック制御が作用していない状態(off-system)の運動であることが示されつつある.結果の一部は国際会議および国際論文にて発表された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,健常者の姿勢動揺計測実験,パーキンソン病(PD)患者の姿勢動揺計測実験,およびヒト静止立位姿勢を倒立二重振子でモデル化した際のシステム解析を行った.これにより,静止立位時の足および股関節に見られる逆位相の振動は,ニュートンの運動の法則に従った,身体の純粋な機械力学的特性であることが示された.また,倒立二重振子モデルのCoMの前後方向位置が変化しない多様体(Kinematic UCMと呼ぶ)と,能動的フィードバック制御トルクが作用しない状態での安定多様体(Dynamic UCMと呼ぶ)の幾何学的配置,および姿勢動揺実験により得られた,静止立位時の足および股関節運動の軌跡を詳細に解析することにより,ヒト静止立位時の足および股関節に見られる協調運動は,Kinematic UCMおよびDynamic UCMを巧みに利用した間欠的なフィードバック制御の結果であることが明らかにされつつある. 一方で,PD患者の姿勢動揺と健常者の姿勢動揺を比較することにより,健常者の姿勢動揺には1 Hz帯域の振動成分がPD患者よりも多く含まれていることが明らかとなった.言い換えると,PD患者の関節の振動成分のうち,1 Hz帯域の振動は健常者よりも有意に小さい.この振動成分は足および股関節の逆位相の協調運動の振動成分であることが先行研究において明らかにされており,PD患者に見られる1 Hz帯域振動の減衰は,ヒト静止立位姿勢が本来有する関節の柔軟性を,PD患者が失っていることを示唆する.本研究では,周波数帯域に注目した姿勢動揺を特徴づける指標をいくつか組み合わせることにより,健常者とPD患者を姿勢動揺のみから大別できることを明らかにした.この結果は,PD患者の定量的な診断指標構築の基盤となることが期待される. 以上のように,ヒト静止立位姿勢のモデル解析および姿勢動揺計測実験の両面から本課題に取り組むことにより,おおむね順調に課題は進捗していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,健常者およびパーキンソン病(PD)患者の姿勢動揺計測実験,およびヒト静止立位姿勢の倒立二重振子モデルの解析により,ヒト静止立位時における中枢神経系を介した能動的なフィードバック制御はサドル型システムの安定多様体を巧みに利用した間欠的なフィードバック制御であり,PD患者の姿勢の不安定化はその制御メカニズムの崩壊に起因することを目的とする. 平成27年度の研究において,ヒト静止立位時の足および股関節に見られる逆位相の協調運動は,ニュートンの運動の法則に従った,身体の純粋な機械力学的特性の表出であることを明らかにした.さらに,その特徴的な振動の周波数に一致する帯域(およそ1 Hz)の振動が,PD患者では減衰していることを明らかにした.平成28年度は,これらの知見を総合的に解釈し,また計測実験によって得られた足および股関節運動と,倒立二重振子モデルのCoMの前後方向位置が変化しない多様体(Kinematic UCM),および能動的フィードバック制御トルクが作用しない状態での安定多様体(Dynamic UCM)の幾何学的配置の関係を明確化することにより,健常者はKinematic UCMあるいはDynamic UCMを指向した間欠的なフィードバック制御によって静止立位姿勢を安定化しているのに対し,PD患者はその制御の崩壊によって立位姿勢の不安定化を生じていることを明らかにする. より具体的には,足および股関節の関節角度空間および角速度空間において,Kinematic UCM,Dynamic UCM,および姿勢動揺計測実験により得られた足および股関節運動の軌跡を幾何学的に比較する.これにより,Kinematic UCMおよびDynamic UCMはこれらの空間において区別できないほど類似していること,また関節運動の軌跡もこれらの多様体に沿っていることを明らかにする.さらに,PD患者において減衰している1 Hz帯域の振動が,これらの多様体に沿った軌跡の主成分であることを明らかにする.
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Research Products
(4 results)